「コロナ後の世界」

「コロナ後の世界」ジャレド・ダイアモンド、ポール・クルーグマン、リンダ・グラットン、マックス・テグマーク、スティーブン・ピンカー、スコット・ギャロウェイ/大野和基(編)

「コロナ後の世界」

文春新書「コロナ後の世界」ジャレド・ダイアモンド、ポール・クルーグマン、リンダ・グラットン、マックス・テグマーク、スティーブン・ピンカー、スコット・ギャロウェイ/大野和基(編)

本書は、新型コロナウイルスが国境を超えて感染を拡大させる中、現代最高峰の知性6人に緊急インタビューを行い、世界と日本の行く末について問うている。今や多くのコロナ関連の書籍(いわゆる「コロナ本」)が出版されているが、本書は日本国内の「コロナ本」の中でも定番的存在になりつつあるのではないだろうか。2020年7月20日の初版以来、約1か月後の8月25日には第三版が発刊され、筆者が本稿を草している2020年9月18日現在でもアマゾンのベストセラーの座を守り続けている。

売れている理由は多々考えられる。他のコロナ本と一線を画す特徴として、何といってもノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏、ピューリッツァー賞を受賞し「銃・病原菌・鉄」の著者でもあるジャレド・ダイアモンド氏ら、6名の錚々たる顔ぶれの有識者が著者となっている点であろう。しかも、そうした識者が本書のためだけに、日本の読者に向けてインタビューに答えたとあれば、(新書という手ごろな媒体であることも手伝って)、思わず手にとってしまった人が多いのではないだろうか。

各有識者へのインタビューが行われたのは本年の5月~6月頃とのことだが、その多くが現在のパンデミック終息後の世界の在り方について述べられており、また、世界のコロナ禍が未だ全く予断を許さない現状からも、当面は読んで「賞味期限切れ」を感じることはないだろう。既に書評も数多く出ているので、ここでは筆者の印象に残ったいくつかの論点をご紹介したい。

「時間」というキーワード

本書の著者の一人、ニューヨーク大学スローン経営大学院教授であり、「the four GAFA」(2018年 東洋経済新報社)の著者でもあるスコット・ギャロウェイ教授は、コロナ後の「ビックウィナーとなるのは、時間を節約する企業」であり、特にヘルスケア技術を制する者が次のGAFA(NEXT GAFA)になると予測している。なぜヘルスケア技術が「時間を節約する」技術かといえば、健康であることにより、通院や治療にかかる時間を別の時間に使うことができるからだという。今回のコロナ禍で健康への意識がますます高まり、ヘルスケアへの投資増は当然予測されることではあるが、「時間の節約」という切り口は新鮮に感じた。

また、Netflix等のストリーミング・メディアも、CMを見なくて済むため、視聴者の時間が年間数百時間も節約されているという。いずれも共通するのは、従来のインターネットに代表されるデジタル技術が「距離」や「空間」の超越により時間を節約しているのに対し、これらの技術は時間そのものを節約することにより時間を生み出す点である。人類に平等に与えられているのは時間だけだというが、コロナ後の世界では、「時間」の節約(獲得)競争が起きるのかもしれない。

二極化の波はアカデミアにも

同教授はコロナを「変化の担い手(change agent)」ではなく「促進剤(accelerant)」と呼んでいるが、それは経済だけではなく教育や学術研究(アカデミア)の世界にも当てはまると指摘する。大学でオンライン講義が主流となりつつある現在、「従来通りの年間数万ドルの授業料は高すぎる」と多くのアメリカ人は感じ始めているという。その結果、ブランド価値のある一流大学には学生が集中し、コロナがむしろ「チャンス」となる一方で、そうでない大学の生き残りは厳しく、今後5年間で相当数の大学が倒産する可能性があると予測する。

このような二極化の結果もたらされる格差社会の厳しさを、同教授は「危機を乗り越えた巨象は、競争相手がいなくなったので、ゆっくりたっぷりとエサの葉っぱを食べられる」と表現している。が、筆者は個人的には、「競争相手がいなくなる」とまでは言いきれないのではないかと思っている。例えば恐竜が君臨していた時代にも哺乳類が陰で生き残り、独自の進化を遂げて氷河期を乗り切ったように、こうした二極化の中で生まれる新たな「種」の出現を期待するのは、いささか楽観的すぎるだろうか。

その他の論点

本書では6名の著者がそれぞれ独自の視点でコロナ後を論じているのだが、いくつかの論点は結果的に重なっており、上記の「健康」や「二極化」のほか、「AI」や「米中」等についても複数の著者が論じている。また何人かの著者は単に各国のコロナ対応策の批評に留まらず、その政策を支える国民の投票行動の重要性と責任についても触れている。そういう点にも著者が全員外国人、特に欧米の有識者という「本書らしさ」を感じる。

当然ながら、「コロナ後の世界」の予測は著者によってばらばらであり、悲観的な内容も少なくない。また、著者のすべてが必ずしも日本通ではないため、日本への処方箋については物足りなさを感じる人もいるだろう。それでも今後の「コロナ後の世界」のシナリオの一つ、若しくは文明論として読んでも十分に興味深い内容であり、少なくとも、国際的な有識者ならではのスケール観のある視座を与えてくれるだろう。筆者としては、世界のコロナ禍が一日も早く終息に向かい、「コロナ後の世界」がせめて本書の予測の範囲に留まることを切に願っている。

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