『アルプスの少女ハイジ』の物語の故郷を訪ねて
私にとっては初めてのスイスを鉄道で回る旅で、旅行前に少しオンラインやガイドブックで下調べをしていたところ、チューリッヒからサンモリッツへ列車で移動途中のマイエンフェルトという小さな駅から少し離れたところに、昔日本のテレビで放映されていた「アルプスの少女ハイジ」の物語の世界観を反映して再現されたハイジ村という場所があることを知りました。
今年はたまたま「アルプスの少女ハイジ」の放映50周年記念の年にあたります。カルピスのまんが劇場で、ホルンとハープの音色に引き続き、ヨーデルのコーラスで始まる『くちぶえはなぜ遠くまで聞こえるの あの雲はなぜ私を待ってるの おしえておじいさん おしえておじいさん おしえてアルムのもみの木よ』というオープニング曲で始まる日曜日の番組を子供の頃にご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。好奇心いっぱいのハイジがアルプスの山々を背景にブランコに乗ったシーンが、半世紀が過ぎた今でも子供時代の思い出とともに頭に浮かびます。
ハイジ村
スイスは九州を少し小さくした面積です。最大の都市、チューリッヒから途中1回列車を乗り換え、マイエンフェルト駅まで1時間半ほどで到着しました。駅近くのハイジショップ(案内所)にスーツケースを預け、小さな教会や葡萄畑がある静かな町のなだらかな坂を登ること約40分で、ハイジ村に到着します。入場券を購入すると一枚で「ハイジの家」、「ハイジのアルムの山小屋」、「村役場/学校」、「ヨハンナ・シュピリのハイジ・ワールド」の4つの建物を見学できました。建物に入る前にも山羊や鶏がいる動物ふれあい体験の場所もありました。
ウイキペディアによると「アルプスの少女ハイジ」のアニメは、スイスの作家ヨハンナ・シュピリが140年以上前に書き上げた小説をもとに、日本のアニメ・ プロデューサーがスイスやドイツの風景と日常生活を丹念なアニメーションにより児童文学風に表現したそうです。作品を制作するにあたり海外現地調査には高畑勲氏、宮崎駿氏、小田部羊一氏らが参加していて、その成果は作品づくりに活かされました。
物語の世界観を再現している建物は、予想以上にしっかりと作り込まれており、実際の生活ができるような立派な木造の建物でした。建物の中は全てに手を触れても良いため、ハイジのお気に入りの干し草のベッドを体験することができ、快適な感触で驚きました。爽やかな5月の風がそよぐ中、野鳥がさえずり、山羊が新鮮な草を食べながら首につけたベルを鳴らしていて、すっかりアニメの世界に迷い込んだようでした。駅までの帰り道、夫がぐるっと遠回りをする長いハイキングルートの方を選んだため、急な土砂降りの雨にずぶぬれになりましたが、自然豊かな土地を体験する良い機会になりました。
多くの方がご存知のように、アニメでは両親を亡くし、5歳になるまで母方の叔母のもとで育てられたハイジが、叔母の都合で、アルム(高原の放牧地)の山小屋に住む父方の実の祖父のもとで育てられる話で、ハイジは、羊飼いの少年のペーター、ペーターのおばあさんや子ヤギのユキちゃん、犬のヨーゼフなどに囲まれて育ちます。スイスのアルプスの大自然や、おじいさんや動物たちから様々なことを知り、学んで、健やかに育っていくハイジは好奇心いっぱいの心優しい女の子でした。8歳の時にはフランクフルトに連れて行かれ、クララと友人になります。
原作はキリスト教色が強い内容でしたが、日本のアニメ監督や制作スタッフのおかげで、美しいアルプスの山で暮らす女の子を描いた明るいアニメとなり、欧州各国でも広く放送され、アラブ諸国やアフリカ、アジア諸国を含め、英語圏を除く世界中の国々でも放送されたそうです。
「アルプスの少女ハイジ」は、幼い私に日本以外の世界を垣間見せてくれ、のちに高校留学や大学の学部学科選び、国際広報の仕事への就職、国際結婚へとつながる小さな種子を蒔いてくれたきっかけの一つになったと思っています。
現在はインターネットで、ストリームサイトなどの配信で、日本のアニメを海外からも視聴できる世の中となりました。オーバーツーリズムを上手にコントロールしながら、海外の人々が日本を舞台としたアニメの聖地巡礼をして、日本に触れる機会が増えれば、経済的な効果だけではなく、相互理解が深まり、草の根の友好関係が築いていけることを期待しています。
バージニア在住。フリーランサー。趣味は水泳、旅行、アニメ鑑賞。最近のお気に入りは『SPY x FAMILY』