旧東独地方選挙の結果に見るドイツ極右台頭の流れとは
2024年9月1日、旧東独のチューリンゲン州とザクセン州で州議会選挙が行われ、その結果が大きな注目を集めている。移民排斥のネオナチ極右と常に非難されるAfDは、チューリンゲン州(投票率73.6%)で得票率32.9%で第一党となった。「ドイツ国民が何を言おうが、そんなの関係ない!ウクライナを何があっても支援します!」と大見得を切ったベアボック外相の緑の党は3.2%、ショルツ首相のSPDは6.1%、リントナー財務相のFPDは1.1%。現政権はこの3党による連立政権だが、この連立3政党全部合わせての得票率が、AfDの半分にも満たないという現政権には惨憺たる結果である。ザクセン州(投票率74.4%)でも第一党CUD( 31.9%)に続いてAfDは30.6%という僅差で第2党となり、現政権の3政党は惨敗に終わった。
AfDはなぜ大躍進したのか?
「極右、ナチス、民主主義への脅威」として、ドイツ現政権及びドイツ・メディアによる執拗な弾圧・攻撃にもかかわらずAfDは大躍進。なぜか?AfDの宣伝ポスターで最も目立ったのは「Frieden(平和)」だった。ウクライナ支援に躍起の日本ではあまり触れられないが、AfDのような極右といわれる政党のほとんどはウクライナ支援に反対で、ロシアとの関係改善を主張し、戦争拡大につながる動きに反対をしている。それは「西側がウクライナ支援を止めれば、ロシア・ウクライナの戦争は直ちに終わる。ウクライナ支援という名の軍事産業支援、金儲けのためならウクライナ市民の生命なんぞ、どうでもいい。自由・民主主義の美名の元に、ひたすら戦争を継続・拡大させようとする勢力に追従するばかりなのが現政権だ」という考えに基づき、現政権の外交政策にノーを突きつけているのだ。6月のEU選挙でも欧州各国で、それぞれの「極右」がその支持を大きく伸ばし、フランスを始めとする各国政府の基盤を揺るがせている。押し寄せる移民とウクライナ支援で自国民の生活はボロボロ。国民の怒りと戦争反対の願いが「極右」台頭の真の理由だろう。
ウクライナ難民の存在
ウクライナからの難民は現在、ドイツには約110万人が滞在、ドイツ政府の手厚い保護を受けている。現在、外国人向けドイツ語クラスの生徒の大半はウクライナ人が占めているそうで、そこで私の日本人知人がウクライナ人のクラスメイトから聞いた一例を上げよう。
3人の子供を抱えるシングルマザーのウクライナ女性は、独政府支給の生活保護費に加え、子供一人につき、キンダーゲルド(育児支援金)が250ユーロ、3人なので計750ユーロを受け取る。合わせると知人のドイツ人夫(心理療法士)の手取り収入とさほど変わらないという。そしてウクライナ女性は家賃も政府持ち、日本人の知人は夫の収入が一定額あるために自費で半額払わねばならないドイツ語クラスの学費も全額政府持ち。ウクライナ人の彼女が学校に通っている間の託児施設ももちろん、無料である。知人いわく、「(ウクライナ女性は)良い子なんだけど、自分の夫は給料の半分近くを税金に持っていかれて、その税金で彼女たちを養ってると思うと複雑」だそうだ。そしてこのウクライナ女性、国に帰ったらシングルマザーへの支援など皆無なので、国に帰るつもりはなく、このままドイツにいたいのだそうだ。
また、ウクライナ難民には徴兵忌避の男性も多く混じっている。ウクライナの戦争支援に大金を注ぎ込む一方で、ウクライナ徴兵忌避者にも手厚い保護を行っている独政府の矛盾に対し、怒りの声は大きい。そしてドイツの難民は100万人を超えるウクライナ人だけではない。
シリア難民の存在
ウクライナでの戦争が始まる以前にシリア系難民を約50万人受け入れたため、ムスリム系の人口も爆増しており、時に、ここはどこ?と思わせられるほど、頭巾に身体の線の出ない長袖マキシ丈の女性、タリバンのようなあごひげを蓄えた男性が闊歩している。そして今回の地方選直前の8月23日、シリア系移民によるナイフでの襲撃事件で3人の命が失われるという痛ましい事件が、日本でも刃物で有名なゾーリンゲンで起こった。選挙前のタイミングでの凄惨な事件で、これもAfDには追い風となったかもしれない。手厚い保護のため、各地からの難民の最終目的地はドイツと言われる。重税にあえぐ一般国民の多くが移民政策の見直しを主張する政党支持に回り、移民歓迎を謳う緑の党が大幅に票を減らすこととなった訳だ。
ドイツ経済の現状
そして、ドイツ経済は悪化の一途である。ロシアから輸入していた天然ガスの代わりに3倍以上の値段で他国から購入する羽目になって電気代、ガス代は大幅値上げ。物価上昇は著しく、国民の暮らしを直撃している。主婦目線で見ても、肉類は牛・豚・鶏、すべてロシアのウクライナ侵攻前に比べ2倍に跳ね上がり、小麦粉、油、砂糖も同様。トイレットペーパーも1.5倍くらいで、悲鳴を上げたい状態である。エネルギー代の高騰から、国外へ移転するドイツ企業が続々という中、フォルクスワーゲンが国内工場の一部閉鎖を発表した。筆者は旧東独ザクセン州ドレスデン在住なのだが、ザクセン州には同社の工場が2か所あり、ドレスデンにもその1つがある。もし、ドレスデン工場が閉鎖となったら、今でも空き店舗が目につくようになっているドレスデンの繁華街はさらに寂れることになるだろう。
極左勢力も台頭
さて、極右勢力の台頭の一方、ドイツ憲法擁護庁から1991―2010年まで極左と認定されていたサラ・バーゲンクネヒトという女性が今年1月に立ち上げたばかりのBSWという政党がチューリンゲン州で15.8%、ザクセン州で11.8%の高い得票を得た。こちらのポスターもずばり、「戦争か、平和か」。ウクライナ支援停止、親ロシア、移民政策の見直しとAfDtと主張は同じなのだが、BSW はばりばりの左翼政党である。AfDの党員にはナチス擁護発言をして問題となった者や、スキンヘッドのネオナチが一定数いるのは事実で、これに拒否反応を拭えない層がBSWに票を投じた形だ。
極右のAfD、極左のBSW、両党の得票率を合わせると、チューリンゲン州で48.6%、ザクセン州で42.4%という凄い数字となる。選挙民のおよそ半分近くもの人が、ウクライナ支援を止めて戦争拡大を防ぎ、移民政策を見直せ!という声を現政権に突き付けたということだろう。権力の座にしがみつくためだけの3党連立、実際には三すくみ状態の現政権が少しでも、この国民の声に耳を傾けることがあればと願うばかりだ。
東京出身、万里の子の名の通り、ニューヨーク、ドイツ、ヴァージニア、再びニューヨークと万里を転々とし、現在はドイツ在住11年となる。オペラ、バレエの追っかけとヒマラヤ奥地などの辺境の旅が趣味。