特集「女性のリーダーシップ」:はばたく女性リーダーたち
「女性が女性を支える」CWAJ
戦後まもない1949年、数年前まで敵国同士だった米国人と日本人の有志が、戦後の女性を応援しようと立ちあげた女性のボランティア団体がある。東京に本拠地を置くCollege Women’s Association of Japan(CWAJ)だ。「女性が女性を支える」をモットーとする約400名の多国籍女性からなる団体である。国境や言語を超えた女性同士の友情と連帯から生まれたCWAJは、教育支援と文化・芸術交流を通じて女性の可能性を広げ続けてきた。
戦後暫く、日本はGHQの占領下にあり、民間人が外貨を保有することは厳しく制限されていた。フルブライト奨学金制度などが始まったものの、留学に不可欠な渡航費は支給されず、海外への留学生を悩ませていた。そうした窮状を知った米国Mount Holyoke Collegeの日米の同窓生らが中心となり、学生への渡航費援助を開始したことがCWAJの原点である。その後も時代を先取りし、留学生の相談室設置、中高の日本人教師向け英語教育法の全国展開、日本初となる視覚障害学生への奨学金創設など、先駆的な活動を行ってきた。
興味深いのは、CWAJが「役割を終えた活動」からは潔く身を引き、「新たな分野」へシフトしてきた点である。政府や公的制度が整えば、支援のバトンを渡し、次に必要とされる場所へ向かう。その柔軟さこそが、1949年から続く長い歴史を支えてきた原動力であろう。運営もまた、トップダウンではなく、毎年入れ替わる理事や会員個人それぞれが専門性を生かして連携する、フラットな形が貫かれている。こうした長年の功績が評価され、2025年には内閣府男女共同参画局による女性のチャレンジ支援賞、外務大臣表彰、ヘレンケラー・サリバン賞を相次いで受賞した。
奨学生たちの今
CWAJの76年に及ぶ活動の中から、奨学金を受け、各界で活躍する女性リーダーが多数育っている。渡航費援助を受けた奨学生には、著名な舞台演出家、キャスティングディレクターである奈良橋陽子氏がいる。奈良橋氏が運営するアップスアカデミーは、世界で活躍する俳優を多数輩出していることでも知られている。日米の演劇・映画界をつなぎ、世界で活躍する才能を育ててきた。その存在は、日本の表現文化を世界へ押し出す大きな原動力となっている。
「海外留学大学院女子奨学金」「外国人留学生大学院女子奨学金」「視覚障害学生奨学金」という3つのカテゴリーからなる現在の奨学金制度が整ったのは1972年のことである。
海外留学大学院女子奨学金
大石佳能子氏は、CWAJ海外留学大学院女子奨学金の受給者である。日本の大企業で働き続けることに限界を感じ、ビジネススクールへの留学を目指したが、当時、すでにビジネススクールの学費、生活費は高額で、自費留学で行くことは非常にハードルが高かった。ビジネスは学術分野ではないので奨学金を出してくれるところはなく、たまたま専門分野や年齢を問わないCWAJの奨学金制度を知って応募した。CWAJからの300万円、自分の貯金と親からの支援で一年目を、二年目はサマーインターンと就職先からの前借で乗り切った。CWAJの奨学金が無ければ、留学は難しかったと回想する。
また資金面だけでなく、日本人女性が世界に出ることを後押ししたのがCWAJで大変勇気づけられたと振り返る。大石氏はその後、25年前に株式会社メディヴァというヘルスケア関係の専門コンサルティング会社を立ち上げ、病院、診療所、介護施設を運営し、グループ全体では2500名ほどを雇用する規模にまで育て上げた。医療界は女性が多いので、女性としての難しさは他の分野に比べると少ないかもしれないが、医師等の医療職ではなく、単なる経営の専門家として医療界に入ることには難しさを感じながらも、組織やヒエラルキーを重視する「男性型」リーダーシップではなく、傾聴と連携を重視する「女性型」リーダーシップを取っていることが功を奏している気がすると語る。柔和な人柄ながら、金融の専門家としての厳しい目線で敏腕を振るっている。
外国人留学生大学院女子奨学金
バングラデシュ出身のSangita Rajbongshi Das氏は、外国人留学生・大学院女子奨学金の受給者である。建築を専門として日本へ留学したのを機にCWAJの奨学金を得て、大学院を卒業。卒業後、日本に留まるも、JICAやNGOで発展途上国援助に従事している。国際連合難民高等弁務官として活躍した緒方貞子氏がロールモデルだと言うように、発展途上国に寄り添う活動を続けている。
Das氏は自分のキャリアは妥協ばかりで、自分の思う20%も達成できていないと、キャリアを継続する困難さを率直に語る。女性はキャリアを続ける上で結婚、出産、性差別などの乗り越えなければいけない壁が幾つもある。そこが男性のキャリアパスとは大きな違いである。
女性として、妻として、母として、外国人として、幾重もの壁に向き合い、理想と現実の狭間で揺れながらも前に進むDas氏は、多くの働く女性の姿を反映しているといえるだろう。2025年7月にCWAJがEXPO 2025大阪・関西万博の「ウーマンズパビリオンin collaboration with Cartier『WA』」スペースにてトークイベントを開催した際には、講演者の一人として参加し、流暢な日本語での講演に観客から賞賛を受けていた。また、Das氏は、CWAJの会員でもあり、CWAJの「女性が女性を支える」精神を次世代に引き継いでいる。
視覚障害学生奨学金
最後に、菅田利佳氏をロールモデルとして紹介したい。菅田氏は2021年度のCWAJ視覚障害学生奨学金奨学生である。2024年に東京大学を優秀な成績で卒業、総長賞を受賞。外資系の会社で勤務する傍、専門分野以外でも活躍している。
点字楽譜でピアノを学び、多くの人々の支えを得て通常の高校で夢を膨らませた菅田氏は、教育開発研究と演奏活動を両立する大学の進路を選んだ。国連と若者を結ぶ学生団体の代表を務めた経験から、支援を受ける立場を超え、仲間と協力して未来を創る「リーダーの卵」としての新たな可能性を見出すことができたそうだ。失敗を恐れず前進する力を与えてくれたCWAJには心から感謝すると述べている。
その縁は、現在の外資系企業勤務と並行して行う演奏・講演活動にもつながっている。昨秋、CWAJのチャリティーコンサートでは素晴らしい演奏を披露し、聴衆の感動をさそった。「音楽と言葉で、誰かの心に寄り添える存在でありたい」――。その願いを胸に、これからも学びと挑戦の道を歩み続けたいとその抱負を語る。
応援団として
CWAJの奨学生が口を揃えるのは、CWAJが一歩を踏み出す勇気をくれたということである。CWAJは教育支援という名の応援団のようなものである。奨学生選考は、CWAJ会員が3ヶ月あまりをかけて行なう。そうした、厳しい選考を経た奨学生が活躍している様は、会員にとってはかけがえのない宝である。
連携プレーで行うCWAJの運営姿勢は、奨学生たちの歩みにも色濃く表れているように思う。大石氏が言うように、これからの社会にはヒエラルキー型のリーダーシップではなく、フラットな関係で連携プレーを行うタイプのリーダーシップが必要なものかもしれない。CWAJの奨学生には、今後も各界のロールモデルとして益々の活躍を期待したい。
CWAJ会長





