なぜフードウォーキングツアーが面白いか
旅行先で「フードウォーキングツアー」に参加されたことはありますか?比較的手頃な価格で、運動もしながら地元の歴史を学び、お薦めローカルフードも楽しめ、更に新しいお友達も作ることができる「歩いて食べる」ツアーは魅力いっぱいのお薦め旅イベントです。
観光地での食べ歩きツアー
ツアーは、少人数のグループで5-6軒の周辺レストランに立ち寄り、あらかじめ注文された食事をガイドさんの説明を聞きながら頂くのが一般的なスタイルです。ソウルフード、エスニックフード、シーフードなど多様なテーマで企画されており、カクテルやワインツアー等はしごツアーもあります。特にクラフトビールの醸造所を巡る地ビールツアー(バー・クロール=バーをはい回る)は若者たちに人気です。全米のりんご産地として、ワシントン州に次いで生産量の多いニューヨーク州北部では、サイダートレールと言われるリンゴ酒の醸造所巡りも開催されています。地元の自治体は観光客を呼び寄せるためこぞって趣向を凝らした食イベントを企画しています。
フードツアーの醍醐味
フードツアーの魅力について詳しく見てみましょう。まずは手頃な価格だということ。平均50ドル程度で、中には100ドルを超えるものもありますが、5種類ほどの料理が食べられることを思えばお得感があります。「自分で値段を決めるツアー(name-your-own-price tour )」もあります。申込時の支払いは無料で、ツアー終了後、各自値打ちがあると思った金額を支払うというユニークなシステムです。ニューヨーク市のイーストビレッジでこの種のツアーに参加しましたが、レストランは全て名所で、ガイドさんの熱弁ぶりも素晴らしく、風変わりなエスニック料理やデザートを満喫でき、私も含めツアー参加者はみな感動して気前良く料金を払いました。フードツアーと提携しているレストランは、独自の名物料理を出すことで大きな宣伝効果を得ることができます。
また、観光しながら運動できる点も魅力です。自転車で数キロ圏内を回るツアーもあり、例えば筆者が訪れたシンガポールでは、マレー族、インド系移民、チャイナタウンとそれぞれ1-2キロ離れているので、自転車での移動がぴったりです。集合場所にはヘルメットと身長に合わせた自転車があらかじめ用意され、参加者はガイドさんの後ろに一列に連なって走ります。細く曲がりくねった歩道や賑やかな通り、建設現場なども通り抜ける自転車ツアーはスリル満点でした。次のレストランに到着する頃にはまたお腹が空いて食欲が湧いてきます。
地域の歴史について学べることも魅力のひとつです。脈々と変遷を遂げてきた街に身を置き、当地で生活する雰囲気を味わいながら探索するので、その街を身近に感じることができます。大統領になる前のリンカーン氏が演説をした会場や、アイルランド人が集まるアイリッシュパブ、ドイツ人街、ユダヤ人街、リトルインディアなどガイドさんの説明を聞いていてもそれは楽しく、当時の街の息吹を感じるようです。ダイナミックな壁画が彩るアーバンアートもあり、生きた街の風景も楽しめます。学校や教会を改造したレストランもあり、建築美溢れるインテリアも魅力です。
食と絡めた逸話も逃せません。イーストビレッジのツアーでは、アダム サンドラーの映画「ビッグ・ダディ」に出てくるダイナーに立ち寄りました。ギリシャ料理の豆をつぶしたスープ(スプリットピー・スープ)が一口サイズの紙コップで出され、どろっとした緑のスープは苦手だと思い込んでいましたが、街の雑踏の中で飲む温かいスープはその場の雰囲気までもが体に沁み込むようで、忘れられない味となりました。シンガポールでは、イギリスの植民地時代を彷彿させるラッフルズホテルの外観を見学しました。イギリスの作家、サマーセット・モームが愛したというカクテル「シンガポールスリング」は、このホテルのロビーにある「ロングバー」が発祥の地とのことで、いつかはそのバーでそのドリンクを飲んでみたいと願いました。
隠れ食堂で食べるホルプツィ
なんといってもフードツアーの醍醐味はローカル食材を使ったメニューです。料理を頂きながら、ガイドさんが丁寧に食材、料理方法、スパイスの使い方、食べ方などその料理にまつわる話を解説してくれます。シーフードで有名なサウスカロライナ州チャールストンでは、グリッツやシュリンプポーボーイに挑戦しました。 また、地元の人しか知らない場所にも潜入できます。ニューヨークでは、地下の階段を降りると知る人ぞ知る隠れ食堂があり、ウクライナ料理を味わうことができます。しっかりと味付けされたホルプツィ(ウクライナのロールキャベツ)は大人気で、口コミで食べに来る客で賑わっていました。
シンガポールの「ホーカーズ」という屋台村に足を踏み入れると、映画「クレージー・リッチ・アジアンズ」の世界に浸った気分になります。フードコートに中華系出店が立ち並ぶ中でも、地元名物のチキンライスに使われる丸裸のチキンの陳列は圧巻です。シンガポールのリトルインディア地区は、最近ではリトルダッカと言えるほどバングラデシュからの移民が増えており、食堂には様々なスパイスが置かれています。焼き立てのナンブレッドと辛いカレーを汗をぬぐいながら食べたことが忘れられません。一軒ごとの料理は少量ですが、5か所に立ち寄った後はお腹いっぱいになります。
地域を愛するプロのガイド
今まで参加したフードツアーで、ガイドさんに外れたことはありません。賑やかな雑踏の中でも彼らの声は、はっきりと聞こえます。ブロードウェーを目指す俳優の卵のような方に当たればもうラッキーです。シアターで演劇を鑑賞しているかのように面白可笑しく案内してくれます。なぜガイドさんによるツアーはこんなに素晴らしいのでしょうか。それは、彼らが自分の案内する街をこよなく愛しているからではないでしょうか。プロのガイドという職業意識もさることながら、彼らはかつてこの地にどのような人々が住み、どのようにコミュニティを築き上げていったのかということに大きな興味を持ち、そして今この街に自分も住んでいることを誇りに思っています。旅する人々に自分の故郷について情熱を持って語り、そんな故郷があることに感謝し、楽しみ、皆と分かち合おうという精神はなんと素晴らしいことではないでしょうか。
旅の楽しみ方は多種多様ですが、フードツアーは家族や友人またはおひとり様でも楽しめ、「食と歩きと歴史とゴシップ」という人生をより美味しくするスパイスの組み合わせが絶妙です。皆さんも是非試してみてください。
お薦めツアー
ニューヨークシティー・イーストビレッジ East Village Food Tourサウスカロライナ州チャールストン Charleston Culinary Toursシンガポール Bikes and Bites Food Tour
リサーチ・コンサルティング会社「ワシントンコア」(1995年設立) 創業者兼共同代表取締役。津田塾大学を経て、ウェストバージニア大学で米国史学位取得後、バージニア大学国際関係修士号取得。