人生初のお稽古事、遅ればせながら日本文化に挑戦!
着物始め
ワシントンから日本に帰国して早くも10年目に突入します。女流作家たるもの着物ぐらい着られなくては(!)と思い立ち、一昨年から着付けを習い始めました。というのも、筆者が在米中に母が優美な訪問着と袋帯を誂えてくれたのですが、一度も袖を通さずに実家の箪笥に眠っており、早く持ち帰りなさいと再三言われていたのです。着物には関心が薄かったのですが、母も高齢、存命中に訪問着姿を見せて感謝しなくては、と親孝行モードになった次第です。
先ずは自宅に近いヒルトン東京ホテルにある着付け教室(いち瑠)の「着付けお試し」に伺いました。着物や帯、長襦袢や小物等すべて借りられ、手ぶらで通える教室とのことです。初日は何が何だかわからず、それでは帯が落ちてしまいます!とか先生に注意され、四苦八苦でした。それぞれ3カ月間の初級・中級・上級、全9カ月の基礎科を修了して自装できるようになり、昨年からは月に1回の研究科に通い研鑽を積んでいます。
「自分の国の民族衣装を着られないのは日本人ぐらいです」と着付けの先生に指摘され、日本人たるもの着物が着られなくては確かに恥ずかしい、と気づきました。実は昔、交換留学制度で米国の高校で1年間学ぶことになった折、日本文化の民間大使ですから、と渡米前に大急ぎで着付けと日本舞踊とお茶を教えられたのですが、すっかり忘れていました。
昨年、ワシントン在住の友人とロンドンで落ち合い久しぶりに英国旅行、大英博物館に颯爽と着物で向かいました。米国から来たとの女性アーティストの方に褒められ、ぜひ写真を撮らせてくれ、と頼まれたり、ランチで横のテーブルに座られた英国のご婦人から、美しい着物を見せていただいてありがとう、と感謝されたり、日本の着物の威力に我ながら感激しました。
京都で舞妓さんの写真を勝手に撮る迷惑な外人観光客、とかのニュースを目にしましたが、着物は外国人の注目をそれだけ浴びる日本文化の象徴、ということではないでしょうか? 着物姿で千鳥ヶ淵を訪れた際にはフィリピンから来日中の女性グループに一緒に写真に入ってくれと頼まれ、築地本願寺ではスペイン人観光客に請われて並んで記念撮影。着物で街歩きするとにわかセレブの心境になれたりします(笑)。
ワシントンに20年以上駐在したのに、なぜもっと早く着付けを習って向こうで着物を披露しなかったのか、と今では大いに後悔しています。最近は外国の方が出席するレセプションには着物で参上。往々にして和装は筆者一人だけ、と着物文化の衰退が淋しい限りですが、微力ながら日本の着物の美を紹介し続けたいと願っています。
着物をお召しになる方々が減った昨今、パーティーや同窓会では着物で登場しただけで注目され、話の糸口にもなります。前はよく着ていたけれど又着ようかしら、とか、着物を着てみたい、とか言っていただくと、着物文化の興隆に多少貢献できたかしら、と嬉しくなる筆者です。
着物の醍醐味
着付け教室では着付けの他に着物の種類、着物や帯の産地や特徴、着物と帯のTPOなど基礎知識を一通り学びましたが、まだまだ着物初心者です。しかし度胸だけはあるので、着物専門誌「美しいキモノ」の70周年記念パーティーに出席し、着物トレンドの変遷を拝聴し、初対面の着物先輩諸氏から色々学ばせていただきました。着物巧者が集う「きものSALON」誌の奄美大島旅行にも参加、新調した大島紬で着物歴数十年の方々とも和気藹々、着物愛を分かち合う同士ならではの楽しい旅でした。
そうそう、着付けを勉強したおかげでギネスまで獲得したのでご報告。着付け教室主催のパーティーに着物モデルの一人として出席し舞台でモデルウォーク、「着物ファッションショーに出演したモデルの最多人数」としてめでたくギネス認定され賞状をいただきました! 千人以上の着物美人が一堂に会する機会は後にも先にもこれだけでは、と感慨に耽ったものです。
着物は千回着て一人前、とのお言葉を着付けの先生から頂戴し、着物を着る機会を増やしましょう、と今までサボることもあった同窓会に皆勤、レストランでの友人とのランチやディナーにも着物、美術展にも一人でサクっと着物を着て出かけています。着物仲間のおかげで、歌舞伎に能に文楽、とこれまで縁の無かった伝統芸能に親しむ機会もでき、この歳になって急遽日本文化の奥深さに開眼しました。あれこれ着物イベントを考えて実践、昨年遂に「着物でお出かけ」百回目を達成しました!
いわゆる「着物の沼」にハマった筆者は、TPOや季節感を考慮した着物コーディネートを考えるのが楽しくて仕方ありません。美しい伝統工芸品の着物や帯は眺めているだけでも幸せな上、これぞ、というコーディネートの着物姿で衆目を集める大人のコスプレ感(?)が病みつきになります(笑)。よく「着物一枚帯三本」と言われますが、筆者は着物一枚帯十本、帯一本着物十枚、くらいの組み合わせができるよう色・柄を熟考して着物や帯を誂え、毎回なるべく違うコーディネートを実践、作家ブログやインスタ(#愛川耀が撮る着物コーデ)でご紹介しています。帯締め一本の挿し色で表情を変えることができる着物は素晴らしい服飾文化ではないでしょうか?
2025年の抱負
さて、着物を自装できるようになったので、昨秋からお茶も習うことにしました。茶道は日本文化の集大成、とのこと。近所のホテルニューオータニにある茶室「清静庵」で開かれる初心者の為の茶道教室(裏千家)に毎週着物で通っています。覚えるべき作法が多過ぎてここでも四苦八苦、茶道の心を味わう余裕はまだありません。日本の伝統に培われた美しい所作、が身につけられるようになるのはいつの事やら・・(笑)。着物を着て心穏やかに美しい立ち居振る舞いでお茶を点て、客人との一期一会を楽しむ、という境地にいつか到達したいものです。
今年は「着物でお出かけ」二百回目達成を目指して着付けを上達させたいです。加えて、お茶の稽古に励み、初級を修了して茶道の基礎を身につけようと思います。着物にせよお茶にせよ、新しいお稽古事に出逢えて日々これ研鑽、これまでほぼ無縁だった日本文化の世界に足を踏み入れ人生の幅が広がりました。若い頃から和装やお茶をなさっている方々には遅れを取りましたが、筆者も日本人として着物や茶道の学びを続け、多少なりとも日本の伝統文化を盛り上げるお手伝いができたら、と願っています。
恋愛小説作家。東大卒、スタンフォードMBA。外資系投資銀行及び国際機関勤務を経て執筆活動を開始。作家ブログ「愛川耀のネコ日記」で執筆活動や日々の楽しみ方を連載中。愛川耀インスタグラムで取材旅行先の写真などを公開。