フランスで勢力を伸ばすマリーヌ・ル・ペンの国民連合(RN)

マリーヌ・ル・ペン(1968-)の率いる国民連合(RN)の前身はマリーヌの父ジャン=マリー・ル・ペン(1928-)の国民戦線(FN)である。ジャン=マリー・ル・ペンは1972年に国民戦線(FN)を結成。ファシストで、反ユダヤ主義であり、歴史修正主義(強制収容所のガス室を否定、等々)を掲げ、さらにはフランス革命と共和制を敵視する王党派やカトリック右派の伝統をも継ぐフランスの伝統的な極右。暴力、暴言を否定しない典型的極右翼のボスであった。2000年代からFNの選挙キャンペーンに関わるようになったマリーヌは、そういう父親の極右政党の親玉というコワモテの印象から、穏やかで節度のある魅力的な人物へとイメージチェンジを図り、極右翼に結びついている反社会的な要素の排除を政策に織り込んできた。

2011年からはマリーヌ自身が党首となり、2015年には、父ジャン=マリーのFNと距離をとる必要性から、父親を党から除名し、極右的な父のFNと一線を画す。2018年には名称を国民戦線(FN)から国民連合(RN)に改め今日に至っている。

マリーヌ・ル・ペン(オフィシャル・ウェブサイトより)

マリーヌ・ル・ペン(オフィシャル・ウェブサイトより)

RNが票を伸ばした社会的要因

国民連合(RN)が支持を伸ばした要因としては、まず何よりも経済の停滞が挙げられる。グローバル化の弊害により、地域社会が衰退、よって失業や非正規雇用が増し、購買力の低下を引き起こした。英国の欧州連合離脱も拍車となり、反欧州連合を叫ぶ右翼ポピュリズム政党がヨーロッパ諸国で台頭し、そうしたEUへの逆風は、フランスにおける欧州懐疑主義(主権主義を標榜)の旗手である国民連合(RN)にとって追い風となった。欧州連合に懐疑的なRNに票が集まる背景には、案外知られていないがフランス社会には資本主義体制に対する強い批判意識もつ国民が他国よりも多いことも指摘しておく(注1)。

二つ目の要因は移民問題だ。フランスの経済に移民労働力は不可欠だが、同時に近年の世界情勢の下、不法侵入する移民が後を絶たず、国境の入国管理を厳しくすることを求める国民の数が増えている。加えて、イスラム原理主義によるテロも、国民 のイスラムに対する不安と反感を増大させ、移民のイメージを悪化させ、国内の治安を求める声が高まる中、移民問題と治安を結びつける極右翼の主張が一部の民衆に説得力をもって受け入れられている。

マリーヌ・ル・ペン率いるRNのポピュリズム

マリーヌのRNの基本的スタンスは、民衆の側に立ってエリートと対決するというポピュリズム構図である。2002年と2007年の大統領選では父ジャン=マリー・ル・ペンが2回とも初回の投票で予想外の勝利を得たが、結局、決選投票で敗北。FNが多くの国民に危険な極右政党とみなされていることは明らかであった。以後、キャンペーン責任者であったマリーヌは極右への偏見を払拭し、FNへの抵抗感を薄める戦略に出る。

2011年にマリーヌが新党首になってからは、人脈を広げ、自派以外にも高級官僚や知識人たちをアドヴァイザーにし、党の思想の知性化に力を入れている。人種差別主義や外国人嫌いの非難を避けるために、移民を不用意に攻撃はしない。フランスの普遍主義に則って共同体主義と戦う政党であり、ライシテ(世俗主義、政教分離)を掲げる共和国の擁護者であるという立場を鮮明化しようとしている。

2度の離婚後3人の子供を育てながら現在では事実婚を選択しているマリーヌは、妊娠中絶に関しては基本的に中絶権利擁護派であり、性的マイノリテイの権利も尊重するという。従来の極右翼では考えられないリーダー像である。しかし2017年大統領選ではマクロン候補との決選投票で敗北。RNの脱悪魔化はまだ十分でないこと、そしてまた国民を説得するだけの政策も十分でないことが露呈した。

フランス国民議会の現状

今年6月に行われた欧州議会選挙でRNはこれまでにない多数の議席を確保するに至った。マクロン大統領は国民議会(下院)を解散して総選挙を行い、あらためて政府が有権者に支持されていることを確認しようとしたが、大統領の予想は外れ、下院の第一回目投票でもRNが有利な票数を獲得。なんとしても第2回目の決戦投票でRN票を抑制したい政府は、左翼連合と組み、それぞれの陣の票を集約する戦略によって、RNが過半数以上の議席を獲得するのを阻止した。結果として、RNは比較的多くの議席数を得たにもかかわらず、相変わらず国会で警戒され、新内閣からは遠ざけられた(注2)。

RNは表向きは穏健な政党と化したが、閉じた社会(福祉排外主義)への誘いを他のヨーロッパ右翼ポピュリズム政党と共有する右翼であることに変わりはない。このまま社会の不安定が続けば、見捨てられている国民を助けるという名目の下に2027年の大統領選でRNが再び決選投票にまで漕ぎ着くことが危ぶまれる。



注1:資本主義体制に対するフランス人の批判意識の強さを示す国際比較調査(2019年6月19日-10月13日) ―「資本主義体制は間違っていて、他の体制が必要である」との回答(27各国)は次の通り:フランス43%、イタリア29%、スペイン29%、イギリス19%、アメリカ13%、ドイツ9% [出典:PERRINEAU, Pascal 著, Le choix de Marianne. Pourquoi, pour qui votons-nous ? p.147‐148、Paris, Fayard 出版, 2012.]
注2:なお、極左派「不服従のフランス(LFI)」も内閣から除外された。政治的現状や欧州統合の現状に批判的な極左翼LFIは、左翼ポピュリズムを掲げて、RNと民衆層の支持を奪い合うライバルである。反グローバリズム、反EU、反ネオ・リベラリズム、保護主義といったポピュリズム的手法は、RNと変わらない。尚、RNもLFIもロシアのプーチンに寛容な姿勢をとっている。


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