大人女子旅 in ニュージーランド:最高のセラピー!
遠い島国、ワインと羊肉、女性がトップになれる国、地震。ニュージーランドで想像することといえばそれぐらいで、無知だった私。昨年11月、ニュージーランドの議会である法案の審議中に、目を見開き、踊りながらその法案を破り捨て抗議した議員の映像がソーシャルメディアで拡散されたが、その時はその踊りが先住民マオリの伝統舞踊「ハカ」であったこともよく知らなかった。
そんな私が昨年11月末から12月初旬(現地は夏)にニュージーランドを訪れることになったのは、大学時代の親友の結婚を祝うためだ。ニュージーランドでの教育・留学の促進に取り組む日本人の彼女が日本駐在のキーウィ男性と結ばれ、彼の故郷であるクライストチャーチで「デスティネーション・ウェディング」を挙げることになったのだ。
ワシントンから直行便はなく、20時間超の移動時間を強いられるが、このおめでたい行事をミスしてはならないと、一緒に招待された友人ら2名と出席を決めた。ニュージーランドには二つの主要な島があるが、北島にある同国最大都市のオークランドに2泊、南島のクライストチャーチに6泊した。
しかし、我々は40代半ば過ぎの立派なおばさん。久々に集まりはしゃぎたいと思ったが、20代の頃と比べ責任も増え、体力も異なる。一年で最も慌ただしい感謝祭とクリスマスの間に10日間家と仕事を空けるのはハードルが高い。お洒落もしたいが、変化した体型に昔のドレスが合わず焦る。極めつけに、スピーチを頼まれている。実は直前になり、ドタキャンを検討するほど長旅の負担を恐れていたのだ。
ドタキャンなどせずなんと良かったことか!信頼する女友達らと心境を語り合う時間も特別だったが、美味しい食事と豊かな自然に加え、アート、歴史、伝統、地元の人々と触れ合う機会など、ニュージーランドには大人女子に必要な旅の要素が詰まっており、心身を労わる最高のセラピー旅行となったのだ。
フラット・ホワイトと食事:その美味しさの秘訣は
ニュージーランドの食文化は世界の大都市にも勝ると思う。まず、コーヒーが美味しい。オークランド到着後、新郎新婦の勧めで最初に口にしたのは Allpressというチェーンのフラット・ホワイト。ニュージーランドのカフェ・メニューはエスプレッソ・ドリンクのみだが、ニュージーランドはこのフォームの少ないラテとも言えるドリンクが得意らしい。どのお店もラテアートが上手で、飲むと脳が冴えて人生に満足する味わい。
食事に関しては、一皿一皿の盛り付けのセンスと色彩の美しさにまず喜びを感じる。味付けも、自分では再現できない深みがあるが余計に凝り過ぎた感じもない。現地の朝食の定番、「スマッシュ・アボカド」も何度も食べたが、アボカドトーストもグリーンピースを入れると更に美味しいと知った。新郎新婦の友人である地元のニュージーランド人に振る舞ってもらった家庭料理も、良い食材をシンプルに調理しただけなのに、贅沢な味がした。
なぜなのだろう。私の解釈だが、この国の人たちには、丁寧に食事を用意して楽しむ心の余裕があるからなのではないか。同じ島国でも人口密度は日本の4%ぐらいで、セカセカしない。唯一の欠点は、それが故かコーヒーを作るのが妙に遅いことがしばしば。
ちなみに、永住権が取りやすい国としても知られるニュージーランドには移民も多く、アジア料理も豊富だ。日本人としては、要所要所で食べることができたフォーやカレー、うどんは有難かった。ワーキングホリデー中の日本人の若者も多く、彼らがウェイターをする居酒屋で焼き鳥も食べた。ついでに言えば、途中で受けたタイ式マッサージも上手だった。
島国の魅力
北島と南島以外に、周辺にある小さな島々も見所の一つだ。 オークランドからハウラキ湾をフェリーで渡って私達が行ったのは、「ワインの島」として知られるワイヘキ島。植物もカラフル。この国の人達の色彩感覚が優れていると思ったが、こうした自然の美しさに囲まれているからか。「Casita Miro」というワイナリーで最高のランチを楽しんだ。
街中に融合する自然とアート
オークランドもクライストチャーチも、街中に自然とアートがコンパクトにまとまっており、短時間で色々なことを楽しめる。
オークランドのアートギャラリーには、現地の女性芸術家による作品の特別展覧会を目指して行ったのだが、ピカソ、マティス、モネ、ダリらの作品も潜んでいた。丘の上にある戦争記念博物館へは、市内からアルバート公園や緑に溢れる「Lover’s Walk」という散歩道を通って辿り着いたが、そこでは海の見える景色が待っている。博物館ではマオリの「ハカ」の公演も観た。迫力と温かみを兼ね揃えた踊りだった。
オークランドを360度見渡したければ、オークランド市内にあるスカイタワー(高さは世界第8位)もお勧めだ。
クライストチャーチは、1時間あれば路面電車で中心街を一周でき、街中をエイヴォン河が流れる小さく長閑な街だ。観光スポットの一つであるボタニカルガーデンには、バラ園や日本が寄贈した「世界平和の鐘」がある。ガーデン近くのアートセンターでは香水作りも楽しめた。この街のアートギャラリーも、小規模だが展示の種類が豊富だ。もちろん、旅行に買物は付き物。ショッピングセンターでリテールセラピーも堪能した。
この平和な街を襲ったのが2011年2月の大地震だ。日本人28名を含む185名が亡くなり、日本の語学研修生12名の尊い命が奪われた。その悲劇を胸に向かったのが、「カードボード・カセドラル」。当時倒壊した大聖堂(現在も再建中)の代わりに、日本人建築家の坂茂氏が設計した、段ボールで造られた仮設大聖堂だ。
滞在最終日、クライストチャーチの人気絶景スポットを目指し、ゴンドラでカベンディシュ山を登った。頂上では真実と思えない美しい風景が待っていた。そこから見えた海にも行きたくなり、大人女子の決断力と行動力を発揮し急遽タクシーで向かった。たどり着いた海辺を、旅の思い出を噛み締めながら歩いたのだった。
意外な結末
空港へ向かう途中、「嫌なことが一つもない旅だったね」とわざわざコメントした私。案の上、サンフランシスコ経由のフライトで帰る予定が、機体に不具合が生じ、途中でホノルルに迂回する羽目に。四十時間後、やっと家に着いたと思ったら風邪をひいた。
それでも、今回の旅は、私にとって必要な旅だった。渡航前は忙しさに発狂寸前だったが、旅行後は、逆に如何に退屈な毎日を普段送っているかに気がついたのだ。新しい環境で気分転換することは大切だ。今も旅の余韻に浸りたく、地元の人に勧めてもらったお土産を楽しみ、スマッシュ・アボカドの再現を試みる私。30年近い友情を築いてきた親友達とまた素晴らしい思い出を作りたいと思う。次はいつ、どこへ行こうか。
バージニア在住。主に東京、ワシントンDC、サンフランシスコで育つ。2021年より米国非営利法人日本国際交流センター(JCIE USA)の代表を務める。JCIE USAでは、日米両国の共通課題に関する政策研究や対話、米議会の対日理解を推進する事業を実施。現職に就く前は、ニューヨークのジャパン・ソサエティー、東京とワシントンDCの笹川平和財団、戦略国際問題研究所(CSIS)など、日米交流や国際関係に取り組む両国の組織等で勤務。スタンフォード大学卒業(学士号、修士号取得)。