音楽で結んだ欧州旅行:タリン・ベルリン・ハンブルグ・ロンドン
友人のいずみさんが、「ノイマイヤーの最後のシーズンで『マーラー3番』を観たいので、誰か一緒に行ってくれない?」と言ったのは、2023年の半ば頃。彼女は、ハンブルグ・バレエ(ドイツ)の芸術監督ジョン・ノイマイヤーの大ファンで、彼が51年間務めた最後のシーズンが2024年に終わるというので、同行する人を探していた。私は、オペラもバレエも大好きなので、「一緒に行きます!」と手を挙げた。
彼女が行きたいエストニアのタリン、私が行きたいベルリンも加えて旅程を調整した。帰国便がロンドン経由で、ロイヤル・オペラで人気テナー歌手ヨナス・カウフマンが『アンドレア・シェニエ』のタイトル役をやることがわかったので、ロンドンにも2泊することにした。シアトルからタリンに入り滞在、ベルリンに飛んでオペラとバレエ鑑賞、ベルリンから列車でハンブルグに移動、ハンブルグではいずみさんの最大の目的であるノイマイヤー振付の 『マーラー3番』と『幻想 白鳥の湖のように』を鑑賞、その後ロンドン経由でシアトルに戻るという旅程。二人で何度も話し合い、バレエとオペラのチケットも調達した。
私が37年前に卒業したYale School of Managementにいた時に住んでいた大学院生寮で友人になったワルターがハンブルグに帰ったことはわかっていたが、住所もメールアドレスもなかった。唯一電話番号があったので、ダメ元でかけてみたら、なんと、ワルターが電話にでたではないか!シアトルから9時間も時差があり、ドイツは真夜中だったが、夜型の彼は電話にでた。彼は、38年ぶりの私からの連絡にとても驚いたが、私達がハンブルグに行くと聞くと非常に喜んでくれ、大歓迎と言ってくれた。
タリンへ
6月1日にシアトルを出発、次の日の夕方、ヘルシンキ経由でタリンに到着。タリン空港から市バスにのって、中心街のホテルまで行く。翌朝、いずみさんの友人のつてで連絡できたタリン在住の日本語ガイドのケルツさんが迎えに来てくれた。ご主人が元ハンドボール選手で、広島の湧永薬品でプレーしていて、彼女は広島大学で日本語を勉強した。現在は、ご主人と旅行会社を経営していて、日本へのツアーを運営している。この日はたまたまタリンにいたが、旅行シーズンは、日本に滞在して、日本中をガイドして回っているという。きのこが大好きないずみさんのタリン訪問の目的は、郊外の湿地帯を探索することで、ケルツさんの運転する車で、まず郊外の湿地帯に行った。
ケルツさんによれば、エストニアは、スウェーデンやロシアからの侵略や支配を受けてきたが、この湿地帯に隠れて抵抗した。その後、30万人が集まったという世界合唱祭(国連無形文化財)の会場や、タリン中心街の案内をしてもらった。エストニア国会議事堂は、丘の上にあり、宮崎駿の『魔女の宅急便』の背景にもなったオレンジ色の塔をもつ建物が並ぶ風景を眼下に見ることができた。
ケルツさんの祖父は国会議長で、1940年のソ連のエストニア併合時に、逮捕、処刑され、他の多くの人とともに名前が建物の壁に刻んであった。1989年のバルト三国のソ連からの独立運動時に高校生だったケルツさんは、手をつないで抗議する「人間の鎖」に参加した。インターネットがない時代に、指導者がテレビ塔を占領して民衆に連絡をしたという。エストニアは、人口が京都市と同じくらいの140万人程度の小国だが、非常に誇り高く、愛国心が強いという印象をうけた。
ベルリンへ
次の日の午後、ベルリンに移動。中年女性二人の旅行なので、ベルリン国立歌劇場に徒歩で行くことができるホテルに滞在。
二日目は、地下鉄でベルリンの壁記念館まで行き、徒歩でブランデンブルグ門、ユダヤ博物館、ポツダムなどを見学。夜は8時から、ベルリン国立歌劇場でバレエ。三日目は、大聖堂とフンボルト・フォーラム見学、午後から観光船に乗る。英語のガイドがとても上手で、好天の中、ゆったりとベルリンを見物できて大満足。夜は、ムソルグスキーのオペラなので、私だけ行く。
ハンブルグへ
次の日は、いよいよハンブルグへ移動。ベルリン中央駅から、予約してあった列車に乗る。ハンブルグ駅に、38年ぶりに会うワルターが迎えに来てくれた。感激の対面!ワルターからハンブルグではウナギのスープが名物ということを聞いて、夕食はウナギのスープ。割とさっぱりしていた。夜は、ハンブルグ国立歌劇場で、ノイマイヤーのバレエ『幻想 白鳥の湖のように』を観る。ここも、ホテルから徒歩4、5分の距離。
二日目は、ワルターと奥さんの明美さんがホテルに来てくれ、一日中案内してくれた。爆撃にあったままの姿を遺している聖ニコライ教会跡と市庁舎を見学。ハンブルグは、ハンザ同盟の主要都市で豊かであったため、第二次世界大戦で多くの爆撃を受け、甚大な被害をうけた。17世紀の商工組合員の未亡人のために建てられた住居跡(「未亡人の家」)が観光地になっており、そこのレストランで昼食。ラプスカオスという塩漬け肉にジャガイモ、玉ねぎ、ビーツなどを煮込んだハンブルグの名物料理を食べる。夜は、ワルターと明美さんの家に招待された。
三日目は、コーヒー博物館に行く。ハンブルグは、ニューヨークに次ぐ世界第2のコーヒーの貿易港とのこと。夜はエルプ・フィルハーモニーで行われたメシアンのステージ形式でのオペラを鑑賞。これも私だけ行く。
四日目は、最大の目的であるノイマイヤーの『マーラー3番』を観た。前から8列目の中央という席で、興奮しながら待っていると、隣の席の女性が、「ノイマイヤーは、あの席に座るのよ」と私達から見て右方向の1列目の席を指さす。ライトが消えて暗くなると、ノイマイヤーが入ってきてその席に座り、いずみさんは彼の写真をとることができて、大喜び。
『マーラー3番』は2時間弱の長編を休憩なしで踊る。男性バレエダンサーの群舞で始まるストーリーのない現代的な振り付けだが圧倒的な迫力。終焉後、隣に座った女性ガブリエラに誘われて、出待ちに向かう。慣れた様子でステージ出口に向かうガブリエラを私達は必死で追いかけた。先程まで踊っていたダンサー達が次々に出てきて、ファンは話しかけたり、一緒に写真をとったりしている。ガブリエラは、ルーマニア出身のプリマの追っかけで、出てきた彼女といつの間にか消えていた。「ノイマイヤーが出てくることもあるわよ」と言われて、しばらく待っていたが、彼は出てこなかったので、ホテルに戻るが、興奮冷めやらず、ホテルのバーで飲む。
次の日はゆっくりホテルをチェックアウトして、ロンドンに向かう。ホテル代が高額なロンドンだが、ロイヤル・オペラハウスに徒歩で行ける距離のリーズナブルなホテルに泊まることができ、ロンドン一日目は、オペラ『アンドレア・シェニエ』、二日目はバレエ『白鳥の湖』を観た。
イベントが盛りだくさんの充実した旅だった。
東京都出身。上智大学外国語学部ロシア語学科卒業。Yale大学MBA。ニューヨークで証券会社勤務後、シアトルに移住。現在は教育コンサルタント。






