海外育ちの次男が選んだ神前結婚式

参進の儀(さんしんのぎ)。斎主(神主)と巫女に先導されて本殿・御社殿へと進む新郎新婦

参進の儀(さんしんのぎ)。斎主(神主)と巫女に先導されて本殿・御社殿へと進む新郎新婦

2022年12月、次男が東京の湯島天神で、神前結婚式を挙げた。キリスト教徒じゃないのに牧師と聖書の前で誓いを立てる日本の多くの結婚式とは違い、日本古来の八百万の神に誓う神前結婚式は、厳かで本気度が感じられ、皆の心に残る式だったと思う。

なぜ神前結婚式?

次男は北京、スイス、ワシントンDCで合計8年を過ごした帰国子女である。ワシントンDCで通った中学・高校は、世界各国の子供が通う国際色豊かな公立校だった。学校には多くの日本人が在籍していたが、次男はできるだけ日本人とは距離を置き、アメリカ人や各国からの友人を作る努力をしていた。

国民の人種や元々の出身地がバラバラなアメリカでは、プレスクールの頃から毎朝、アメリカ合衆国への忠誠を誓う「忠誠の誓い」を、みんなで胸に手を当てて、斉唱する。アメリカ人のアメリカ人としてのプライドの高さは、アメリカに住んだことのある者は皆知っている。辟易するくらい、アメリカ人が The greatest Nation in the worldと自国を呼ぶのを耳にする。オリンピックの金メダリストですら、国歌斉唱の時に胸に手を当てなかったことで、猛烈な批判に晒される。だからだろうか、そのアメリカの学校で教育を受けた外国人の若者は、アメリカに憧れる一方、却って自国の良さも見直し、自分のアイデンティティを認識し、プライドを磨くことになる。

次男は、よって、驚くほど、日本人としてのアイデンティティと日本を思う心が強い。ただ、「愛国心」と言う言葉がまとってしまった右翼的な響きが嫌いだ。彼は、母国日本のために働きたいと願い、でも活躍の場は海外がいいと希望し、日本の商社に就職した。彼が恋したのは、その法務部で働くLawyerの女性である。

神前式ってどんな結婚式?

親である我々の時代には、入籍、結婚式、同居の順だったと思うが、現代の日本は自由である。次男の場合、1年同居してから入籍、そして結婚式。彼らが選んだ神前結婚式がどのように行われたか紹介しよう。

  1. 参進の儀(さんしんのぎ):結婚の儀を告げる雅楽が生演奏される中、斎主(神主)・巫女に先導された“花嫁行列”が本殿・御社殿まで進む。
  2. 斎主、新郎新婦、親、親族、友人一同が入場。
  3. 修祓(しゅうばつ):一同起立、斎主による祓詞(はらいことば)に続き、清めのお祓いを受ける。
  4. 祝詞奏上:斎主が神前にふたりの結婚を報告し、幸せが永遠に続くよう祈る。
  5. 誓杯の儀:三三九度の杯。永遠の契りを結ぶ。
  6. 神楽奉納:巫女が神楽に合わせて舞を奉納する。
  7. 新郎新婦が神前に進み出て、誓詞(=誓いの言葉)を読み上げる。
  8. 玉串奉奠(たまぐしほうてん):新郎新婦が神前に玉串をささげ、「二拝二拍手一礼」。
  9. 親族杯の儀:親をはじめ両家の親族が、順にお神酒をいただく。
  10. 斎主あいさつ:斎主が、結婚の儀が滞りなく終了したことを報告する。

全員が退場。

修祓(しゅうばつ)。誓いに先立って清めのお祓いを受ける

修祓(しゅうばつ)。誓いに先立って清めのお祓いを受ける


誓杯の儀。三三九度の杯をかわす新郎新婦

誓杯の儀。三三九度の杯をかわす新郎新婦

全部で30分くらいであった。調べてみたところ、神前結婚式は比較的新しく、1900年に大正天皇が神前で結婚式を挙げられて以来、庶民にも広がったとのこと。それまでは、庶民の結婚式は、新郎の自宅に、親族などを招いて行っていたらしい。

それが理由なのだろうが、現代日本で神前結婚式を行う場合の不便さは、歴史ある神社に結婚式としての設備がないことであった。親族両家それぞれの控室なんぞは存在せず、また結婚式としての専用スペースがないため、厳かな式が執り行われる本殿の後ろでは、お賽銭箱にチャリーンと入れ、柏手を打って祈願する一般客がいる。逆に、賽銭箱の向こうで結婚式が執り行われていることを知ってビデオに撮る人もいる。ま、見知らぬ人にも祝われていると思えばありがたい。

生演奏の雅楽と巫女さんの奉納舞に感激しているうち、式は終了。一同、宴会会場までタクシーで移動した。

生演奏の雅楽にあわせ、巫女が舞を奉納する

生演奏の雅楽にあわせ、巫女が舞を奉納する

これから

次男は妻を心から愛しており、強い思いゆえ、婚約指輪は自作した。サファイヤが取れるという山に休暇を取って出向き、原石を掘り出し、どこかの工房で指導を仰いで自分で加工し、指輪にした。出来上がりの写真を見て私は絶句したが、優しい奥さんは一言も文句を言わず「家で」はめてくれていると言う。それを聞いて、私はこの2人の将来の幸せを、確信した。


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