イタリア家族旅行 -Tuscany off the beaten path-
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宿泊したVilla Leonardo周辺の風景
70歳の節目に計画した家族旅行
2019年夏、イタリア・トスカーナ地方で家族全員そろったバケーションを楽しみました。事の始まりはその約2年前、70歳を目前に控え、40歳も50歳も60歳も何もしないで漫然と過ぎてしまったから、今度こそ何か節目になるような、しかも思い出になるようなことをしたい、家族みんなで旅行をするなんていうのはどうかしら?と思ったのがきっかけでした。ちなみに私の家族構成は、私(夫はいません)、長男一家(長男、その妻、8歳と6歳の娘)、次男一家(次男、その妻、6歳の男の子と2歳の女の子)の合計9人。まずは、そのような家族旅行に関心があるかどうかを皆に打診したところ、かなり前向きの反響。それじゃあどこにしよう、ハワイでビーチを満喫?アラスカのクルーズなんて野生動物が見られて子どもたちは喜ぶんじゃない?あっ、それから最近、友人が家族でイタリアのトスカーナに一週間家を借りてとっても楽しかったって言ってたけれど、それもいいかもね!「えっ、イタリア?!」、皆の目の色が変わる。「でもイタリアまで長旅だし、時差もあるし、子どもたち大丈夫かしら」、「平気、平気。でもプールは必須よ」――。そのうち、8歳の孫娘までが(親から指導された感はありましたが)「イタリアってピザとパスタでしょう。私、行きたーい」。
これで決まり!2019年夏はイタリアへ、ということになりました。
トスカーナのキャンティ地方で家を借りる
借りた家は、トスカーナのワインで有名なキャンティ地方にあるVilla Leonardo。小高い丘の上にある約5ヘクタールの敷地には数百本のオリーブの木が植えられ、その周りは坂の下にある修道院所有のぶどう畑。あたりにはそれほど人家もなく、トスカーナ地方特有の糸杉の木も所々に見られ、とても美しくのどか。家は古くても、中は使い勝手よく改装されており、柵に囲まれたプールも程よい大きさ。大きなキッチンのすぐ外のテラスには長いダイニングテーブルがあり、そこで一週間、毎食を食べることになりました。石造りのせいか、家の中は、外の熱気を遮断してひんやりするくらいで、あの猛暑にも関わらず、私は一週間滞在中一度も冷房は使うことはありませんでした。私たちが滞在した母屋のすぐ横にある家には、この家の管理人でとても気がきくポーランド人の夫婦、マルガリータとルカが住んでいて、何かと私たちの面倒を見てくれました。彼らの作った家庭菜園にはトマト、玉ねぎ、ハーブ類などが植えられていて、「いつでもいくらでもとって食べてね。私たちもうトマトなんか見るのも嫌だから」。私たちは毎日、トマトとバジルをご馳走になりました。
ここで、いくつか旅のハイライトをご紹介します。
Certaldo (チェルタルド)
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チェルタルド・アルトCertaldo Alto からの風景
到着の翌日は、旅の疲れ、時差などもあるので、何もしないでゆっくりしようという計画だったのですが、管理人のマルガリータが「ちょっと出かけるのにとてもいいところがあるわよ。あまり有名ではないから混んでもいないし」と言って紹介してくれたのがチェルタルド。行ってみると、町は丘の下 (チェルタルド・バッソ)と 丘の上(チェルタルド・アルト)に分かれていて、それを結ぶのがフェニキュラ(子供たちに好評)。ほんの1、2分フェニキュラに乗ってチェルタルド・アルトに上がると、そこは中世にできた城壁に囲まれた町で、そこから見える赤煉瓦造りの家並み、そしてその向こうに広がるなだらかな丘は、「あー、イタリアに来た」と実感できる風景でした。町はこじんまりしていて、古い教会、パラッツォ(Palazzo)、土産物屋が並ぶメインロード(と言ってもほんの数ブロック)は石畳で、そこを歩いていてふと目に止まった標識に、「ここはジョバンニ・ボッカッチョの家」とある。ほー、あの「デカメロン」を書いたボッカッチョですか、と思いがけない発見に感動。後で知ったのですが、ボッカッチョは、ここに長い間住みここで亡くなり、お墓もここにあるとのことでした。到着早々、思いがけず、イタリア・ルネサンスの歴史に触れる機会が持てて幸せでした。
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チェルタルドのパラッツォ Palazzo Pretorio in Certaldo
Azienda Agricola Ammirabile ワイナリー
2日目は、次男がウェブで探し、ツアーとランチを予約した近くのワイナリーへ。
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Azienda Agricola Ammirabile ぶどう畑
場所はVilla Leonardoから20分ほどのところで、外見はごく普通の農家。こじんまりした家族経営の農家のオーナー・ジョバンニさんに出迎えられ、早速、ぶどうとオリーブの畑を見学することになりました。こじんまりと言っても敷地は12 ヘクタール、そのうちブドウが5 ヘクタール、オリーブは10 ヘクタール。ぶどうは、キャンティ地方のメジャーなサンジョベーゼにくわえ、コロリーナ、カイナオーロ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニョンなどなど多種が栽培されており、サンジョベーゼは色が薄いから、これにコロリーナを加えて色を濃くするのだ、などと説明を受けました。ジョバンニさんは、前歯がないのがちょっと気になったけれど、英語はとても上手、質問にも的確に答えてくれました。サプライズとして昨日生まれたばかりのひよこも見せてくださり、子どもたちは大喜び。
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前菜のブルスケッタ
ランチは、ジョバンニさんの奥さんグラジアさん手製で、前菜、パスタ、主菜、デザート、しかもワイン付きの大ご馳走。グラジアさんはジョバンニさんよりさらに英語が堪能で、ここで作っているいくつかの種類のワインを丁寧に説明してくださり、料理に加えて、明らかにビジネス、マーケティング担当と見受けられました。暖かく心のこもったイタリア風おもてなしに感動し、ワイン数本(滞在中に全部消費)とオリーブオイル(樽から直接缶に入れてくださり、これまた感激)を買って帰ってきました。お腹いっぱい、ワインでいい気持ち、あとは、プールと昼寝。極楽、極楽の一日となりました。
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ワイナリーを経営する農家ジョバンニさんとグラジアさんの家
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右の2人がグラジアさんとジョバンニさん
マキャヴェッリが住んでいた町 Montespertoli
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昔マキャヴェッリ一族が所有していた城 Castello Sonnino
Villa Leonardo 滞在半ば、近くの San Gimignano という観光地に行く予定を立てていたのが、朝になって、6歳の孫娘の調子が今1つ。急遽、San Gimignano組と居残り組に別れることになり、私は居残り組に入ることになりました。お昼近くなって、孫の具合もすこしよくなり、スーパーマーケットがある町としてはVilla Leonardoから一番近く、なんでもマキャヴェッリが住んでいたお城があるというMontespertoliという町を探索に行くことになりました。街の入り口に、Castello Sonnino という標識がでているがっしりとした城壁のあるお城があり、たぶんここだろうということで入ってみると、ズバリ。中に入ると、待っていましたとばかりのガイドさんに(どうも私たちがその日最初で最後のお客のようでした)、敷地内の見学とワインの試飲はいかが?と勧められ、「お願いします!」。マキャヴェッリ一族は、ここを大昔に手放し、その後何人かのオーナーを経て、19世紀後半からはSonnino家の所有となっており、Sonnino家最初のオーナーの息子はSidney Sonnino というイタリアの首相を2回務め、しかも第一次世界大戦後、イタリアを代表してヴェルサイユ平和会議に参加した人物だということ、現在はワイン、オリーブオイルの生産をかなり手広くやっている、などなど丁寧すぎるほどの説明を受け、そして試飲、ワイン購入、とまたまた思いがけずかなり充実した時間を過ごすことになりました。
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Castello Sonnino塔からの展望。この写真にあるぶどうとオリーブ畑はSonnino 家所有
ガイドさん曰く「家族はみんな今バケーションでいないけれど、ここにいるときは頼めばいつでも家の中を見学させてくれるのよ」(残念!またの機会に!)ということで、ここでもカジュアルで暖かいイタリア人の気質に触れた気がしました。
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ワインカーヴ
坂の下の修道院・ワイナリー
Villa Leonardo から坂をちょっと下ったところに修道院兼ワイナリーがあり、ちょっと気になっていたのですが、管理人マルガリータの、「英語は全然喋れない人たちだから、私が一緒に行ってあげる」というオファーに乗って、ある日の夕方、息子2人と行くことになりました。本当にこじんまりした、ガイドブックにも乗っていないようなところで生産量も僅か。でもちゃんと「ワインメーカー」なる人がいて、マルガリータの通訳付きでとても丁寧に説明をしていただき、またもや試飲。ワインは、こんなお値段でいいの?という割にはとても美味しく、また何本か買って帰ることに・・・。
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修道院ワイナリーのワインメーカーのお兄さん
そのあと、マルガリータに連れられて、近所の肉屋さんへ。何代も続いているという住宅街の真ん中のある肉屋さんで、今夜はバーベキューをしようと肉を購入。マルガリータに「バーベキューしたいんだけれど、バーベキュー用の炭はあるの?」と聞いたら「炭?この辺ではバーベキューにはオリーブの木とローズマリーの枝をつかうのよ」。まあ、なんて素敵。ほのかにローズマリーの香り漂うステーキと修道院のワイン、もう言うことなし、でした。
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トスカーナ風バーベキュー。オリーブの木とローズマリーの枝で肉を焼く
あっという間の一週間でしたが、皆でワイワイ、ガヤガヤ、楽しく仲良く過ごした時間は、私にとって忘れられない良い思い出となりました。
孫たちに、何が一番楽しかった?と聞いたら、即座に帰ってきた答えは「プールとジェラート」!まあ、想定範囲内かな?
大人たちは、のどかなイタリアの生活をほんの少しでも体験できたことが、最大の収穫だったと言ってくれました。
「またみんなでどこかへ行こう!」と来年の夏に向けて、計画が動き始めています。
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バイバイ、Villa Leonardo。また来るわね!
1980年以来ワシントン在住。長年にわたる会議通訳業から最近引退。