罹患して初めてわかる日本の医療の良いところと問題点

リンパ浮腫のイベントの後、Cancer Fitness代表広瀬真奈美さん、がん研看護師の田端さんと

リンパ浮腫のイベントの後、Cancer Fitness代表広瀬真奈美さん、がん研看護師の田端さんと

診断まで

2012年の2月頃から、ウェストが大きくなり、重度の疲労感も感じるようになりました。しかし、その頃仕事のストレスが非常に大きく、年齢(51歳)もあって「重い更年期障害だろう」と思い、しばらく様子をみていました。

しかし、5月に退職を決意し仕事のストレスが減っても体調は悪化、お腹はどんどん大きくなり6月末には臨月のような状態に。さすがに変だと思い、7月上旬、内科のかかりつけ医を受診、先生は「卵巣がん」と判断し、婦人科がんの専門医を紹介してくださいました。7月半ば、検査結果を聞きに行ってそのまま緊急入院、あれよあれよという間に治療が始まりました。父は広島で被爆し胃癌で没している(享年56)ので「いつかはがんになるかも?」と覚悟していたものの、父よりも早い51歳でのがん宣告に焦りました。

治療開始直後に緊急洗礼を受けたとき。体調が悪くガリガリに瘦せている

治療開始直後に緊急洗礼を受けたとき。体調が悪くガリガリに瘦せている

治療

卵巣がんは、開腹→生検→確定診断→病巣切除→抗がん剤→再手術という過程を経ることが多いですが、私の主治医は、抗がん剤治療からはじめました。腫瘍が大きく広範囲に腹膜播種もあり手術が困難なこと、腹水検査でがんの確定診断がついたことが理由です。最近は抗がん剤を先行させる場合も多いようです。

抗がん剤はタキソール(パクリタキセル)+カルボプラチンを3週間おきに投与するというものでした。

抗がん剤3クール目で腫瘍径が半分に縮小し2012年11月に手術、鳩尾から恥骨付近まで約30センチを切開し、左右卵巣と子宮を全摘、骨盤内と傍大動脈リンパ節の計58個を郭清、7時間半に及ぶ大手術でした。

手術後2ヶ月ほど休み、2013年になってから3回、マンスリーで抗がん剤を打ちました。治療プログラムを完了したのは2013年3月末、診断から9ヶ月、入院の延べ日数は92日でした。

治療体験雑感

父の被爆の影響

がん罹患後いくつかの患者会に出席して、被爆2世であることを再び意識するようになりました。どんな患者会でも必ず被爆2世・3世に遭遇します。100人規模の集まりで、毎回5人前後います。(現在の統計ですが)広島市と長崎市の人口を合算すると日本の総人口の1%強。ですから5%というのは、明らかに高率といえましょう。広島出身の医師サバイバーにきくと慢性骨髄性白血病(CML)は明らかに多いそうです。が、他のがんも因果関係がある、と私は疑っています。このように放射線障害は70年・80年と残るものです。核は紛争解決の道具として二度と用いてはならないと声を大にして主張します。

日本では高度の治療が少ない負担で!

日本では、非常にレベルの高いがん治療を少ない経済的負担で受けられます。私の場合、化学療法を6クールと手術(7時間半!)、延べ92日入院しましたが、健康保険+高額療養費限度枠のおかげで、自分のおサイフから実際に出ていった額は70万円くらいでした。この他に、お勤めの方は傷病手当金(非課税!)も支払われますので、がんに罹患したからといってすぐに経済的に困窮することのないよう制度設計されています。

患者の自己決定権は途半ば

患者の自己決定権尊重という点では、日本は欧米に劣るように思います。

私の主治医は患者の意思・自主性を非常に重んじて下さいましたが、それは私がラッキーなだけ、と仲間から指摘されました。特に地方では医師の先生に嫌われないように提案された治療を粛々と受け入れるという現状があるようです。

生活の質より根治優先?

また、日本はがん治療において、根治を重視しすぎる傾向があります。私の場合は初発でしたので根治優先にも理由がありましたし、主治医は生活の質にも配慮して下さいました。しかし、患者会では、乳がん根治を優先するあまり、肩周辺をあちこち切って廃業に追い込まれたピアニストの話や、投薬のメリットがないのに亡くなる間際まで抗がん剤を打ち続けるという例も耳にします。

治療一段落後のフォローに課題

治療が一段落した後のフォローには課題が多いと感じました。これは日本だけの問題ではないようです。

がん治療は、手術+抗がん剤治療をした場合、治療終了直後の体調は病気前の半分以下で、完全社会復帰には時間がかかります。休職/失業中の場合、社会的つながりも失われ、メンタル面もかなり落ち込みます。しかし主治医も看護師も次の患者の「治療」で忙しく、一段落した患者へのコミットメントは激減。また社会復帰プロセスで必要とされるのは、むしろ医療以外のサポートですが、それをどこで相談したらよいかの情報も不足しています。そのため、治療が一段落した後の方が、逆に孤立感が強まる、というケースが少なくありません。

社会復帰の壁はまだまだ高い

今やがん罹患者の5年生存率は60%超、そのため復職・再就職が社会問題化しています。がんを理由とする解雇は表面上はありませんが、無理な勤務条件を押し付けたりして退職に追い込む=実質解雇は多いです。

退職すると、年齢やキャリアのブランクから再就職はかなり難しくなります。
私が全く新しい分野で起業したのも、やりたい事が見つかったというだけでなく、前職と同じ分野では満足なポストが見つからなかったのも一因です。

ジェンダーギャップが酷(ひど)い

2019年開催の厚生労働省主催のセミナー「令和の働き方改革~両立支援が会社と社員にもたらすもの~」ポスター(JR上野東京ラインの車内で撮影)


2019年開催の厚生労働省主催のセミナー「令和の働き方改革~両立支援が会社と社員にもたらすもの~」ポスター(JR上野東京ラインの車内で撮影)

厚労省のポスターを見てください。令和元年(2019)の12月の話です。治療と仕事の両立のシンポジウムへの参加のよびかけのポスターに女性の姿が一人も描かれていません。

ところが、国立がんセンターの出す統計を分析すると、就労年齢の新規患者は圧倒的に女性です。しかし、これを厚労省/国立がん研はしっかりと把握していません。ですから、厚労省の提言は女性にはピンとこないことが多いのです。患者として想定されているのが、妻帯者の男性だと思われる提言がたくさんあるのです。

就労年齢(20~59歳)における男女別がん罹患者数(2015年のがん罹患者数データ、出典:国立がん研究センター)

就労年齢(20~59歳)における男女別がん罹患者数(2015年のがん罹患者数データ、出典:国立がん研究センター)

就労年齢(20~59歳)における男女別がん罹患者数(2015年のがん罹患者数データ、出典:国立がん研究センター)

就労年齢(20~59歳)における男女別がん罹患者数(2015年のがん罹患者数データ、出典:国立がん研究センター)

また、ビジネスシーンでは、女性がパンプスをはくべきという考えを厚生大臣が擁護したり・・・。これなど抗がん剤の副作用で末梢神経障害を抱える女性には「がんに罹患したら復職するな」と言っているようなものです。でも、大臣は何が問題か理解していません。

アメリカでも、男女平等に関して今でもglass ceilingが存在すると聞きますが、日本の場合は女性がん患者にとっては天井どころか「床が抜けている」状態です。詳しくはこちらのブログ記事をご参照ください。

とまあ、いろいろ問題点を指摘しましたが、一緒に少しでも現状を変えていこうとする心強い仲間もたくさんいます。そして、いろいろお知恵をくださる医療関係者や医師・看護師以外の医療従事者や患者仲間がいるのも事実です。現在、私は、そうした仲間と楽しく、騒々しく(?)ワイワイ・ガヤガヤと問題解決に取り組もうとしているところです。

弾性スリーブ・ストッキングの専門店「リンパレッツ」

オスロ大学病院の看護師Kariさんと、リンパレッツ店内で

オスロ大学病院の看護師Kariさんと、リンパレッツ店内で

そこで、まず誕生したのが「リンパレッツ」です。リンパレッツは、主としてリンパ浮腫患者さんの圧迫療法に用いるための弾性スリーブ・ストッキングを販売する専門店(東京都中央区)です。

リンパ浮腫とは、リンパ管の損傷のためにリンパ液の流れが悪くなり、皮下にリンパ液がうっ滞して浮腫みを生じる症状です。90%ががん治療(手術放射線照射・抗がん剤)の後遺症として発症します(他は先天性疾患や大怪我など)。

リンパ浮腫は生活の質を非常に押し下げるにも関わらず、命に関わらないので医師・看護師からは軽視されがち。そのため、患者はケアしてくれる医療機関や、治療の中心である弾性着衣を求めて右往左往する状況がありました。私自身、卵巣がんの手術とその後のむくみで大変な思いをしたので、リンパ浮腫に悩む人が適切な着衣を、十分に試着・吟味した上で購入できるお店を作ろうと思って起業しました。

アメリカ・リンパディーバス社のスリーブをお客様が試着。医療用スリーブの概念を変えるオシャレな品

アメリカ・リンパディーバス社のスリーブをお客様が試着。医療用スリーブの概念を変えるオシャレな品

このような経緯でスタートしたので、リンパ浮腫患者さんに治療用のスリーブ・ストッキングを販売することが事業の中心ですが、リンパ浮腫患者さんには、弾性着衣の販売に加えて、受診可能な医療機関をご紹介したり、保険申請のお手伝い、その他、患者サポートのための情報発信も積極的に行っております。腕・脚以外の浮腫も医療機関や患者団体と連携しながらサポート、
リンパ浮腫以外のむくみ治療(特に高齢者の浮腫み)もお手伝いしております。

弾性着衣は、高価であるにも関わらず、病院の売店では種類が少なく、試着もできません。ユニクロのTシャツだって試着できるのに、1着2万円も3万円もする治療用の着衣が試着できず、困っている方が多いです。当店では納得できるまでご試着いただいております。

アメリカRxFitの製品。透明度を強調するため足にマジックでお店の名前を書いた

アメリカRxFitの製品。透明度を強調するため足にマジックでお店の名前を書いた

スペイン製の弾性グローブ。はめたままでも仕事がしやすい設計

スペイン製の弾性グローブ。はめたままでも仕事がしやすい設計

フランス製の夜間用スリーブ。不思議な形状だが効果が高い

フランス製の夜間用スリーブ。不思議な形状だが効果が高い

また、もともとが「語学屋」(東京外国語大学ドイツ語科卒業)なので、英語・ドイツ語でのサービス提供も可能です。日本在住のご友人で、がん治療のこと、リンパ浮腫のことでお困りの方がいらっしゃいましたら、ご紹介ください。


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