クッキータルト Torta de Bolacha とブラジル人イタリア・マンマ
私がブラジルのフォズ・ド・イグアス(Foz do Iguacu)という街に留学していたのは約20年前。1年間という短い留学期間でしたが、色々な思い出があり、なかでも特に懐かしく思い出すのがブラジルの食べ物。ブラジルといえば、シュラスコ(Churrasco:正確な発音はシュハスコ)やフェイジョアーダ(Feijjoada)などお肉料理が有名ですが、ブラジル人にとって無くてはならないものは甘いもの。
たっぷり砂糖とミルクを入れたコーヒーに、チョコレートやアイスクリームをトッピングにしたピザ、これまたチョコレートといちごが入った熱々のパステル(揚げ物)、ジャムのたっぷり入ったクッキー、しまいには練乳に「ミロ」を混ぜて食べるなど、、、当時17歳の私は、日本で甘いものをほとんど口にしなかったのでとても衝撃的でした。
最初は「甘いものはちょっと」と躊躇しながらも、せっかくだからと食べているうちに、気がついた頃にはいつも甘いものを欲するようになり、ホストマザーの目を盗んではクッキージャーから甘いクッキーやウェハースをつまみ食いするようになっていました。
ブラジルには多くの移民が住んでおり、特に多いのはドイツ系とイタリア系の移民でした。ブラジル人に美しい人が多いのは、いろんな人種がミックスした多人種国家だからともいわれています。私のホストファミリーも、イタリア系ブラジル人の家族で、ステレオタイプになるかもしれませんが、イタリア人ってこんなイメージだろうなと思うような温かい家族でした。特にホストマザーは、私を実の娘のように可愛がってくれ、よく周りの人には、Minha Filha Japonesa(私の日本人の娘) とポルトガル語で紹介してくれました。愛情が人一倍深く、とても強い女性なのに涙もろい素敵なホストマザーでした。今でも時々連絡を取合う仲です。
そんなブラジル人のイタリア・マンマはお料理が大好きで、毎日美味しい料理を振舞ってくれました。ブラジルでは、昼食がメインで、残り物を夕食に食べることが多いので、昼にたっぷり食事をして、夜は残り物、デザートということが多かったです。
イタリア・マンマの作るラザーニャやパスタ(特に鳥の心臓のパスタ)、イタリア風ヒレカツは私の大好物で、いつもホストシスターやブラザーより多く食べてしまい「この子は本当に食べるのが好きね!」と私に分からないようイタリア語で愚痴をこぼされることもありました。でも、なぜか何を言ってるかわかってしまうのも可笑しいものですね。
そしてデザートのなかで一番好きだったのは、イタリア・マンマのレシピ Torta de Bolacha(クッキータルト)でした。タルトと言っても焼いたりせず、市販のビスケットを使って簡単に作れるレシピです。イギリスのトライフル (カスタードやスポンジケーキ、フルーツを層状に重ねたもの)に少し似ているかもしれません。
材料(5人分)
- マリー・ビスケット 2箱 (約42枚)
- 生クリーム 2パック (約400グラム)
- 練乳 1チューブ (約120グラム) お好みの甘さの量
- インスタントコーヒー 小さじ2
- キットカット 大袋(14枚入り)2つ
- ココアパウダー お好みで最後の飾り用
用意するもの:
- 少し深めのお皿(ビスケットをインスタントコーヒーに浸すため)
- 深めのタッパーかタルト皿
- ジップロック
作り方:
- 生クリームを少し柔らかくなるまでたて、緩めな柔らかさになってきたら、好みの甘さに仕上がるよう練乳を入れ混ぜ合わせ、冷蔵庫で冷やしておく。
- インスタントコーヒーを深めのお皿に入れ、ビスケットが裏表浸るくらいまでのお湯を注ぎ、よく混ぜて冷ましておく。
- キットカットをジップロックに入れ、綿棒などである程度形が残るよう潰して粉にする。少し形を残すとサクサクした食感が楽しめる。
- 1の冷やしたクリームを深めのタッパーかタルト皿に薄く敷く。
- 2のコーヒーにビスケットを裏表をひたし、柔らかくなりすぎる前に取り出し、4のクリームの上に敷き詰める。
- 5の上にお好みでキットカットをふりかける。
- 4-6を繰り返し、ビスケット、クリーム、キットカットをミルフィーユのように重ねてゆく。
- 最後に残りのクリームを上からたっぷりかけ、ココアパウダーとキットカットをふりかける。すぐに召し上がれますが、1日冷蔵庫で冷やすと一層柔らかくなりとても味わい深くなります!
…とレシピはとても簡単なので、マンマのそばで、当時まだ幼かったホストシスターと一緒によく作ったレシピです。ホストシスターとキャッキャと笑いながら、ビスケットをコーヒーにひたし、クリームを敷き詰め、泡立て器についたクリームをこっそりつまみ食いしたりと、このクッキータルトは私のブラジル時代の楽しい思い出を想い起こさせてくれる特別なレシピです。
今回、レシピを寄稿するにあたり、友人たちにブラジル時代の話をしたところ、ぜひ食べてみたい、ということで集まって一緒に作ることになりました。材料を持ち寄ったのですが、最終的にはそれぞれ好きなものを作る、手伝うということになり、私はクッキータルトを、アメリカ人の友人はアーティチョークのディップを作り、フランス人の友人はキットカットを割る手伝いをしながらソシソン(フランスのサラミのようなもの)をおつまみに食べていました。いい音楽を聴きながら、ビールを片手に、様々な国の友人たちと楽しい時を過ごしている現在の自分を、当時17歳の私は想像もしていませんでした。これもブラジル人のイタリア・マンマとクッキータルトが繋げてくれた縁なのだと感謝し、とても温かい気持ちになりました。
大手海外ホテルや日本総責任者としてRoam Co Livingに勤務後、制作会社オフィスマネージャー、通訳、海外ビジネスの日本会社ローンチのフィクサーなど多岐に渡るビジネスに従事。2019年より訪日富裕層向け旅行会社PMP社でトラベルデザイナー兼ガイドを経て、新潟市の老舗パン屋のリブランディングに従事し、外資系デリバリースタートアップにも勤務。2021年より旅行会社/広告代理店 Wondertrunkでトラベル・プランナーとして日本の地方を世界に広めるべく日本中を飛び回っている。