70 の手習い ― 着物リメイク

着物リメイク

6月のある日、当地の日系非営利団体(ケアファンド)からのお知らせがメールで届いた。何気なくクリックすると、「着物リメイク・ワークショップ」の案内が目に飛び込んできた。即、申し込みをした。

当日、言われるままに道具を揃えて、バージニア州アナンデールにあるケアファンドの教室に出向いた。それでも、文鎮、チャコペンは私の古い裁縫箱には入っていなかった。中学の家庭科の授業で浴衣を縫ったのが最初で最後、ボタンつけと裾を纏る以外には和裁にも洋裁にもとんと縁のない生活だった。

ワークショップの目標は単衣着物からチュニックを作成すること。講師は当時、ケアファンド副会長でいらした内山英子先生。参加者は先生も含めて約10人、年齢層は40代~70代とお見受けした。受講者は、自分の着物を持参するか、または、ケアファンドが準備した着物の中から、好みのものを購入することができた。私は後者の一人で、ほぼ新品に近いウールの着物を選んだ。ついでに、「あら、ステキ、寒いときにカーディガン替わりに羽織ったら暖かそう!」とかなんとか言って、ウールの羽織も買い込んだ。(手持ちの着物処分法の一つとして、リメイクに参加したのではなかったのか?!)

コロナ規制緩和後のワークショップ

コロナ規制が緩和され、まだ日も浅かったので、人数制限もあったのだろう、希望したけれども、参加できなかった方々もいらしたと後から知った。ワークショップにはマスクを着用しての参加だった。しかし、教室はなんとなくはなやぎ、みんなの顔が明るく楽しそうだった。そう感じたのは私だけだっただろうか。ズーム(ZOOM)でのクラスはそれなりに素晴らしい方法だとは思うが、縫い物のような手仕事を学ぶには絶対in-personが良い。お隣さんに助けてもらったり、「あっ、先生、ちょっとすみません!」と声をかければ、その場で即、問題が解決するからだ。また、「そのお着物、綺麗ねぇ、裁断してしまうのもったいないみたい」、「でも、もう、着ないから…」とおしゃべりしながら手を動かすのが楽しいのである。

着物からチュニックへ

まずは、着物の襟を外し、裾、袖などを先生の指示に従って裁断、袖から襟ぐり用のバイヤス布を作るところまで漕ぎ付けた。テーブルを共有したお隣さんは、もたもたしていた私とはちがい、テキパキと仕事が進む。彼女が選んだ青い紬風のチュニックは、ジーパンと合わせたらさぞかしステキだろうと思った。前のテーブルに座っていた私の知り合いは、紋付の喪服をリメイク、こちらは黒い絹の光沢と柔らかさがおしゃれっぽく、細身で背の高い彼女にたいへん似合って見えた。

あとの縫製については先生が実物を見せながらの説明、帰ってから自宅で完成させるという宿題になった。聞きながら「ふん、ふん」と頷いてはいたものの、「袋縫い」ハッ?「並縫い」ハッ?「返し縫い」ハッ?を繰り返した私は、2時間半にわたるワークショップを終え、帰宅したときは心身ともに疲労困憊。やっぱり70歳過ぎての習いごとはきついのかなと落ち込んだ。

未完成チュニックから完成へ

縫製するばかりになって持ち帰ったチュニックはハンガーを通し、我が家の一番目立つところに掛けた。毎日、眺めてはよくぞここまでやったと自画自賛。やがて、1週間、2週間と時は流れ、私のチュニックは未完成交響曲のごとく、我が家のインテリアのひとつと化した。

ワークショップで配られた縫製法を図とにらめっこしてみたけれども、耳で聞いたほど易しくないではないか。浴衣の直線縫いしかしたことのない人に、「バイヤス布で襟ぐりをくるむ」なんて不可能と、開き直りの心境だった。かと言って、未完成チュニックをこのまま飾っておくわけにもいかず、どうしたものかと思案の矢先、天のお助け、先生が第二セッションを設けてくださったのだ。そして、先生にほとんどをお手伝い頂いて、出来上がったのがこれ!写真は拡大しないでくださいね。不具合のところは私が針を通した箇所ですから(チュニックは残念ながら、背丈156センチ、体重50キロの私には一回り大き過ぎたので、孫に着せてみたものです。)

着物をリメイクして作ったチュニック

着物をリメイクして作ったチュニック

次のクラスはどうしよう?

次回は着物からゆったりしたパンツとかエプロンドレスをつくりましょうよと、受講者の声は弾む。帯からバッグや小物づくりをという声も出ている。果たしてどこまでついて行けるか、正直なところ自信はない。でも、有難いことに、「お手伝いするから、一緒にやっていきましょう」と、声をかけてくださった方もいらした。そんな言葉に励まされて、できれば続けていきたいと思う。

私の手持ちの着物のほとんどは、母や伯母から譲り受けた普段着である。しかし、その一枚、一枚を手にすると、彼女たちの着物姿とともに忘れかけていた遠い昔の情景が目に浮かび、なんとも、ほのぼの~とした気分に包まれる。着物も帯も美しい。もう、身に纏うことがないのなら、他の何かにその美しさを再現させたいと思う。

終わりに

着物にご興味のある方、ぜひ、ご参加なさいませんか。内山英子先生はリメイクだけでなく、着物の基本、種類とTPO、着付けなど、生徒さんの要望に臨機応変に対応してくださいます。当地に着物ファンを増やしたいからだそうです。先生ご自身が着物について書かれた記事がVIEWS2021年冬号特集「着物と和装」に掲載されていますので、ご覧になってください。

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