「乳がんですが、それがなにか?」平常心の乳がん治療メモ

治療エッセイ『乳がんですが、それがなにか?』を出版(電子書籍)

治療エッセイ『乳がんですが、それがなにか?』を出版(電子書籍)

乳がん発覚

がんとの闘病は他人事だと思っていましたが、乳がん検診啓蒙のキャッチコピー「まさか、私が」にある通り、3年前に乳がんが発覚しました。ワシントン駐在時代に何人もの同僚が乳がんに罹られていましたし、乳がん患者の多い米国ほどではないにせよ、日本でも昨今は11人に1人が乳がんになるとのこと。確率的には不思議な話ではありません。

日本に帰国後、乳がん検診をサボっていたところ左胸にシコリ、「良性腫瘍かしら?」と近所の大学病院を訪れたら、即刻マンモ(乳房のX線撮影)とエコー(超音波)検査に回され、「悪性腫瘍・乳がんの可能性あり」と宣告されました。「まさか!」と驚くばかりで、正直、自分事との実感やら悲壮感はありませんでした。リンパ節転移もあり、PET(全身腫瘍検診)やら生検の結果、がんと確定。幸い遠隔転移はなくステージ2とのこと。治療を開始しました。

乳がん治療とは

さて、乳がんとの判定を受けたものの症状は皆無、どこも痛くないし日常生活にまったく支障はなく、病人との自覚はありません。しかし、どうやら肺や肝臓など他の臓器や骨・脳にでも遠隔転移すると、それこそ命に関わる病気のようです。

乳がんについて慌ててネットや書物で勉強したところ、乳がんは「全身病」と考えて治療する必要がある、との記述を読んでヒヤリ。「標準治療」は手術と薬物療法に放射線療法。手術や放射線照射が局所治療であるのに対し、抗がん剤などの薬物療法は全身治療。後者はできてしまったがんを消失させる以上に、他の臓器に飛散しかねない微小転移を根絶し再発・転移を予防することが主眼のようです。

薬物治療は乳がんのタイプ(生物学的特性)により差異があり、病理診断の結果、筆者の乳がんはトリプルポジティブ、すなわち抗がん剤・分子標的薬・ホルモン剤のすべてが有効なタイプで、すべて試すことになりました。

術前に抗がん剤と分子標的薬の点滴治療を3週間に1回のペースで6カ月間、腫瘍は2センチ弱で小さめだったので乳房温存・部分切除手術、部分切除の場合は全摘より局部再発リスクが高いので再発予防に局部放射線治療を5週間、分子標的薬は12カ月が標準だそうで術後に残りの9カ月間追加治療、経口ホルモン剤摂取を10年間、とまさにフルメニューです(笑)。

抗がん剤は怖くない

結果から申し上げると、乳がん治療は「楽勝」でした!

女性ホルモンで増殖するタイプの乳がんなので、現在も(ホルモンを減らす)ホルモン剤を飲み続けていますし、数年後に再発のリスクも有り得るがんですから、10年間ぐらい経過しないと完治したと宣言できないのですが、「がんと生きる」(?)を鋭意実践中です。

作家ですからこの体験を記しましょう、と『乳がんですが、それがなにか?』というタイトルで治療エッセイを出版(電子書籍)させていただきました。というのは、乳がん発覚時にあれこれ経験者の手記やブログ・関連記事を一読したところ、「苦しかった闘病」の体験談ばかりで、もっと前向きな明るい治療記が必要だと切に感じたからです。

メディアにしても、「抗がん剤は辛い・苦しい」式のドラマチックな闘病経験ばかり掲載したがりますが、近年は副作用の吐き気を抑制する強力な制吐剤が登場。筆者のように、気持ち悪いぐらいの一時的不快感はあるにせよ、抗がん剤治療と日常生活を両立できるがん患者さんが多数では、と推察しています。「抗がん剤は怖くない」との筆者の楽勝体験をお読みいただき、最善療法の抗がん剤を忌避せずに、命に関わる遠隔転移を予防していただきたいと切に願っています。

とはいえ、抗がん剤副作用による脱毛は避けられず、筆者も一時髪を失いました。でも、髪は治療を終えれば生え戻ってくれます。1年間ほどウィッグかニット帽でしたが、抗がん剤治療終了の半年後には早くもショートヘアーで外出できるようになりました。それまでずっとロングで髪を切る勇気がなかったので、ショートカットを体験できた良い機会と考えることに。

手術後は新しい胸の形に

手術で胸を切られるのが嫌、と恐れる患者さんも多いと思います。されど転移を防ぐためにも原発巣を完全に取り切ることが肝心、胸より命の温存が第一です。幸い筆者の腫瘍は部分切除で足りる小ささで、腫瘍が浸潤していた乳首は失いましたが、手術で残りの胸の脂肪を引っ張り上げていただき、垂れはじめていた(?)胸もバストアップ!服の胸元から傷口は見えませんし普通のブラで寄せれば胸の谷間も残っています(笑)。

胸の手術痕を見られるのが嫌で温泉に行きにくい方もいらっしゃるそうですが、筆者は手術後も旅先で普通に温泉に出かけています。我ながら綺麗な傷痕ですし、これが新しい胸の形と割り切り、メソメソせずに堂々と胸を張って暮らしたいのです。

尚、巷にはがんの代替療法とかの情報が溢れているようです。しかし、喧伝されている高価な民間治療などを試して時機を失い、がんが他臓器にでも転移したら命に関わります。やはりエビデンスの確立している標準治療が最善治療。遠隔転移すると手術できませんから切れる時に切る、抗がん剤を怖がらない、との冷静な判断・早い治療開始が肝要だと思います。

最後に

統計的にも乳がんは手術と薬物治療でほぼ治せるがんです。乳がんの5年生存率はステージ1でほぼ100%、ステージ4(遠隔転移)の患者さんを含めても全体で93%近く、不運にも転移後に発見されたとしても諦める必要はありません。

乳がんは皮膚に近いので自分で胸を触って発見(!)できましたが、脇下のリンパ節転移には気づけませんでした。無症状でステルス、「まさか、私が」のがんですから、(筆者の体験を反面教師にして)乳がん検診を定期的に受け早期発見を目指しましょう。

治療中も毎月のように取材旅行、執筆やら会食など、通常の生活を送れました。もしもがんと判明したら大変だし・・、とためらったりせず、気軽に検診を受けることをお勧めします。

手術入院中に小説執筆

入院中に執筆した小説『胸のシコリ』(電子書籍)

入院中に執筆した小説『胸のシコリ』(電子書籍)

ところで、病気らしい病気をしたことのない筆者は乳がんで初めて入院生活を体験!手術翌日からどこも痛くなく元気そのものでしたが、リンパ節も切ったので術後1週間病院に留め置かれました。見舞いに来てくれた友人たちと院内カフェに行く他はヒマで、入院中に『胸のシコリ』という小説を執筆。イケメン主治医がインスピレーションです(笑)。忙しい毎日、病を機にちょっと立ち止まって「人生とは」と胸の裡を模索する小説ですので、ご関心がございましたら是非ご一読ください。


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