短歌で綴る君の思い出

最愛の夫ピーターとともに2013年、夫の誕生日を祝う。無表情、無言だった夫の顔に一瞬豆電球が灯った瞬間

最愛の夫ピーターとともに2013年、夫の誕生日を祝う。無表情、無言だった夫の顔に一瞬豆電球が灯った瞬間

認知症を患う最愛の夫との生活を綴った拙い短歌を読んでいただければ光栄に存じます。昔の童謡「ぞうさん、ぞうさん。。。」の作詞者、まどみちお氏が、アルツハイマー病を患った奥様をかかえての生活で大事なことはユーモアの瞬間をとらえることだ、と述べておられました。そこを拙い歌に詠んでいるうちに「癒し」のあることが分かりました。夫は、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の国立がん研究所で35年間、癌研究に携わっていた化学者で、2007年に退職。その翌年、認知症の診断を受け、十年間にわたる闘病生活後2018年に自宅で安らかに息をひきとりました。

2009年

幾歳も我を導く君なれど今の口癖「一緒に」「半分」

2010年

さくらんぼハート形のは絶品だお前にあげると君のたまふ

四時起きの君はミカンの皮をむき眠気眼の我に差し出す

2011年

雪道を数歩歩みてふと見れば君はブーツと靴半々

笑顔どこ、やさしく言ってと君は云ふ行ひ鏡に写すがごとく

真夜中の行進するは君なりきゼンマイじかけのおもちゃのごとく

ただ一度母声たてて笑ひけり君振り付けで歌ひし時に (日本で)

大小の時計を二つした君はベルトも二本しめておすまし

一つ買へ二つ目おまけ君と我何をするのも何処へ行くのも

お前をば嫁に貰ふと君は云ふ四十四年も連れ添ひし今

美しや人も景色も音楽も君の口癖、不平も云はず

散歩前する事あまた我を待つ君落ち着かず立ちまた座る

お背なをば搔いてあげよう主の祈りつぶやきながら夜中の三時

お前をば決して置き去りしないから心配するなと君のたまふ

2012年

相手する世話をするとは異なりて君の求むは相手する事

世話するは当たり前なり君がため時間作りて相手ができる

爪切りと散歩と食事、音楽は聴くも歌ふも君の慰み

裏表右と左に上と下、着物履物君にもどかし

その昔バタフライにて水しぶきあげたる君も今水怖し

君と我宝探しの毎日でソックス本箱バナナは箪笥

ベートーヴェン、トリプルコンのアダージオ思はず手を取り共に涙す

片ちんば君の得意な片ちんば裸足ソックス靴とサンダル

散歩前君の着替えはオリジナル寝巻きの上に下着とズボン

我の名を数秒毎に呼ぶ君は鬱陶しくも愛しくもある

自分語で語り聞かせる君の声活き活きとして快さそう

幼き日母の教へしお祈りを君は唱へる日に二度三度

2013年

初荷の日バスをも待てぬ君誘ひ新年初の買い物遠足

有難や両腕両足健全で二人で袋四つ運べる

掛け布団鍋皿スプーン植木鉢バナナ食パン君持ち運ぶ

散歩時手をしっかりとつなぐ君けふ足早に先へと向かふ

道草のスミレ摘む我置いたままスタスタ歩き君遠ざかる

洗面所君歯ブラシで髭を剃る草木も眠る丑三つ時に

君は今反抗期にて髭剃りも着替えも爪切りすべて拒否する

タンポポを息せききって爺婆に差し出す孫に君知らぬ顔

君の課す宝探しも難度増し洗濯物に埋もれた小鍋

四六時中自分語話す君なれど忘れぬ言葉「我、君を愛す」

バカデカイ仔犬のごとき君なれば鉢植根こそぎ腹立ちも無駄

新聞はオブンで暖めカタログは冷蔵庫入り君の発想

2014年

有名なピーターラビットに輪をかける君のいたずら我笑ひ泣き

北風の強き日散歩オンオンと君声たてる我が手を握り

音楽のテープも絹のスカーフも君コーヒーに浸し染め行く

ギリシャ語で君の名いわお(巌)真夜中に着替え下敷き拒み続ける

真夜中の着替へに目が冴へ声ひそめ君久しぶりに母国語話す

席ずらしそこを動かぬ君のため食卓の方歩み寄らせう

暖めたオーブン何やら焦げ臭いモーツアルトの解説ページ

洗濯日君のポケット中拝見愛書のページに生のアスパラ

診察も仔犬のごとき君なれば肩もみ背かき緊張ほぐす

2015年

双手のべおお美しと君は云ふ窓外に降る雪を見て

サクランボウ二つに割りて種ぬきの半分君に喉と歯いたはり

目玉焼きワシづかみの君、窓外の楓の小鳥朝日を浴びて

うたた寝の君の髪切り髭そりてモーツアルトに我も酔ひつつ

2016年

雪降りておんもに出られぬPちゃんは鉢植え根こそぎ家具に水やる

外吹雪風船つきて折り紙の飛行機とばし君の相手す

ポケットのマウスのコード長く垂れ家中歩く君はご機嫌

父の日に付き添ふ娘に君が云ふ「お前、美し」車の中で

2017年

食卓でうたた寝の君コーヒーでうがひを始め我うろたへる

君を見て悲しと思えばとめどなし共に在る事喜び過さん

天井にのぼりて降りぬ青風船、風の日君とつきて遊びぬ

うたた寝の君に寄り添ひすまし顔、生き雛演ず桃の節句に

我が君の笑顔喜ぶ我を見て幼児のごとき微笑続く

のぼりかけベッドに片膝のせたまま居眠りの君フラミンゴかな

2018年

極寒でおんもに出られぬPちゃんは西の小部屋に日向見つける

極寒の新春君の手を取りて歌口ずさみ室内行進

うがひなら誰にも負けぬ君なれどその後吐きも飲みもせぬまま

胡蝶蘭かすかに揺れてわが君はすかさず素手で蝶とらんとす

日の光注ぐがごとき君の笑みペテロパウロの聖日の朝(6.29)

日の出ずる部屋より出て日の入りの部屋へと移る君と我かな(7.15)

八月

我が腕にすがりて歩む君失くし散歩の我の足元ふらつく

雁遊び緑したたる君の墓トンボのつがひ寄り来て旋回

君と我隔てる垣根のスイカズラ家の花添へ墓に置き来る

汽車ポッポ孫と揺られる森の中君逝く夏も過ぎんとす


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