日本語学習支援を超えて学ぶ: 無形文化財『折り紙』

折り紙クラス兜の日。講師役の大熊先生とボランティアと一緒に

折り紙クラス兜の日。講師役の大熊先生とボランティアと一緒に

ワシントンDC近郊で若い世代の日本語学習をサポートする草の根日米交流団体SJA (Study Japanese in Arlington) のボランティア役員としてユニークな体験をさせてもらっている。2年前の春、地元アーリントン郡の公立高校で日本語プログラムが打ち切られるという衝撃的な知らせがネットやメールを通して広がった。その時「有志が集まって、どうにか阻止できないか、どのような運動・活動ができるか、話し合いを持つので興味があれば」と、知人から誘われたのがきっかけだ。その後、日本語クラスを受講する高校生が中心となり、地域の日本人コミュニティーに署名活動の依頼や教育委員会への直訴など、日本語プログラム継続を訴えるキャンペーンが始まる。娘と同じ年代の高校生が「日本語は確かに難しい。GPAを考えたら分が悪いのは確かだ。だけど大好き。この大好きな、美しい言語を学ぶ機会を奪わないで!」と訴える姿に心を打たれ、SJAの旗揚げに携わることになった。

アイディアの宝庫を持つ発起人宅のキッチンで生まれた小さな非営利団体だが、そのSJA代表と彼女をサポートする頭脳明晰な副代表お二人と共に、心根よく優秀なスタッフやボランティアにも恵まれ一緒に活動している。設立間もないNPOだが、熱心なボランティアに支えられ、月2回の無料日本語クラス、長野豆記者派遣団との交流、ジャパン・デイの文化イベントなど精力的に活動している。ボランティア役員として、またSJAの活動に携わるボランティアとして色々な出会いに恵まれ、日々学ぶことが多い。こうした学びの中でも特に、昨年地元小学校の放課後教室プログラムの一環としてSJAがサポートした折り紙教室を通して感じたことをお伝えしたい。

日本文化を伝えたい!英語で折り紙教室を

非営利団体の活動で街に出てみると日本語や日本への関心度は意外に高いことに気づく。社会人は、アーリントンという土地柄か、連邦政府や軍関連の仕事で日本と関わりがある人や、結婚や義理の関係で家族に日本人がいる人、JETプログラムの卒業生、と日本と何らかの繋がりがある人が多い。一方、中・高校生は、漫画、ゲーム、アニメ、ネットなどを通して日本文化や日本語学習に興味が湧き、日本に憧れを抱くというケースが多いように見受けられる。

地元の子供達に日本文化や日本語への興味を持ってもらうため、幅広い年齢層に根強い人気を誇る折り紙をSJAの活動に導入しようと、ニューヨーク市(NYC)ブルックリンで折り紙教室 Taro’s Origami Studioを運営する矢口太郎先生を講師に招き『折り紙アーティスト講座』を開いた。

折り紙に目をつけたのは、現地の子供たちにも馴染みがあり、今までボランティア経験がない方でも参加しやすく敷居の低い手軽感など、比較的単純な理由からだった。が、「折り紙と折り紙を折るという技術は無形文化財で、これはビジネスである」という矢口氏の講話にまず驚かされた。日本人であれば当たり前のように折り紙を折ることができ、海外生活を経験された方であれば、婦人会の国際文化イベントや子供の通う学校のインターナショナル・ナイト、地域の日本文化紹介イベントなどで折り紙を折るクラフト・テーブルを無償で設置するのは当然のこと。氏曰く、そこに疑問を投げ掛けると。

折り紙ビジネスで日本文化を伝える

矢口氏の本業は国際弁理士。特許・知的所有権を専門に扱う弁理士事務所を営みながら、折り紙スタジオをNYCブルックリンに開設。折り紙教室を経営しながら自身も折り紙作家・アーティストとして大掛かりな作品のデモンストレーションや大手企業広報のデザイン部門と共同プロジェクトに取り組み、弁理士と折り紙アーティストの二足の草鞋を履いて活躍中。

矢口氏は、現代人から見た日本への憧れや関心の要素とは何なのか、着物、書道、折り紙、茶道など伝統文化からデジタル時代のソフト文化までをつなぐものは何か、というテーマを中心に持論を展開してくださった。講話の中で、日本文化を生み出した日本社会の妥協なきこだわり、300年の鎖国を経て培われた独特の気質、職人肌のようなものではないかと。また、日本人として育った人に備わっている気質をどのように伝えるかが、日本のソフトパワーをビジネス展開で活用するポイントであり、延いては息の長い活動に繋がる、と。つまり、日本文化を伝え広めることは、ビジネス化ができてこそ意義あるものになると提唱する。その哲学に基づき運営するスタジオでは、アプリも独自開発し、レベル別レッスンと折り紙アーティスト認定制度を柱にビジネス展開している。

この折り紙アーティスト講座を受講し認定されたアーティストは15名。その中から有志の方のお力添えを得て、SJAは2019年10月からArlington Traditional School の放課後プログラムを提供するベンダーとして折り紙教室を開催することになった。小学校2〜5年生を対象に全7回のクラス。折り紙を折るだけでなく、Taro’s Origami Studioのメソッドを取り込みつつ、季節感を感じることのできる作品を盛り込みながらワクワクする作品作りを目指すカリキュラムを考案。素晴らしい講師にも恵まれプログラムがスタートした。

折り紙教室で伝える礼節・礼儀、ものを大切にする心

作品には生徒の個性が現れる。日本語も頑張って書いてみた

作品には生徒の個性が現れる。日本語も頑張って書いてみた

折り紙教室では、まず、手を洗う、背筋を伸ばして座る、おへそと机との間隔をチェックする、呼吸を整えるために腹式呼吸を行う、先生に挨拶する、お友達同士に優しい気持ちで接することを教えている。そして、紙を大切に使う気持ちを持って折ること、間違って折ってしまった紙をクシャクシャにしてしまわないこと、練習の時は折り目を伸ばして再度折ってみることなど心の持ち方も伝える。「わーい、折り紙だ〜」と教室に入ってきた子供たちは最初少し戸惑いを感じたようだった。折り紙なのに、挨拶、姿勢、呼吸の指導から始まるクラス。でも子供は素直だ。戸惑いを見せたのは初回のみだった。

折り紙は子供達の性格がよく出る。どこか不安げに一つ一つ工程を確認しながら「これでいい?」と丁寧に折っていく子。ピンクの折り紙しか手にしない子。折り紙に熱中すると姿勢も崩れ椅子の上に足を乗せちゃう子。「分かる、分かる」と先に折り始めて「ちょっと待って」と止めなければならない子。デコレーションに俄然燃える子。

ワンステップを見逃してしまって、焦って追いつこうとするとやはり綺麗な折り目が作れない。よく見ると、机の端から折り紙が飛び出ているし、腰も半分椅子から浮いている。子供は早く早く、どうすればいいの?と聞いてくるけれど、ちょっと待った、座る姿勢はどうだった?折り紙と対面している?慌ててない?深呼吸ふぅ〜。以前だったら折ること、作品を仕上げることに焦点を合わせていたため、子供が前かがみになっているのか、胸をドキドキさせたままなのか、などに思いを寄せることもなかったかも知れない。そして、子供たちも徐々に自分で気づいていく。正しい姿勢で落ち着いて紙と向き合うことができて初めて、それが折り紙の折り目の美しさや正確さに表れることを体得してゆく。気持ち穏やかに礼を尽くし折った折り紙は、綺麗に折り目が揃い、誇らしくなるほど素敵で可愛らしい作品に出来上がる。

兜は男子も女子にも大人気。格好良く作った兜で誇らしげ

兜は男子も女子にも大人気。格好良く作った兜で誇らしげ

日本文化の魅力を伝えたい

日常生活で培われてきた日本人の自然に振る舞う所作を目にし、日本語を学びたい、日本のことをもっと知りたい、という気持ちになった社会人や子供たちも多くいることだろう。折り紙一つを取ってもそうした思いにさせる魅力があり、日本の文化背景や価値観が反映されている。日本文化というソフトパワーを活かして国際理解を推進しようとする時、無償でそれを提供することに限界があるのでは?という指摘もある。しかし無償だからこそ広がる輪もある。またビジネスにすることでそこに「価値」が生まれ、それを提供する側も受ける側もその価値観を認識・共有し持続性のある活動に発展する可能性もあるだろう。どちらも意義があり、目的によって使い分けてもいいと思う。放課後教室は、SJAが初めてベンダーとして取り組んだプログラムで、教える立場の人間も折り紙ビジネスという新しい意識を持って臨むことができ、また参加した児童と保護者からも評判が良かった。

伝統文化にしろアニメやゲームにしろ、日本文化には世界中の人々を虜にし、いいな、素敵だな、と思わせるような魅力が詰まっている。その魅力を原動力に「日本大好き」の輪を広げていく草の根活動は新しい視点で日本を捉えられる発見があり本当に楽しい。

  

  

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