ウクライナの平和を祈り、折り鶴でYOU-CRANEプロジェクト

YOU-CRANE: Fundraiser for Ukraineの案内

YOU-CRANE: Fundraiser for Ukraineの案内

ロシアがウクライナに侵攻し2週間ほどたった3月初め、ロシアによる無差別ともいえる武力行使により破壊された町や殺害された人々、および避難所や隣国に逃げる女性や子どもたちの映像を連日メディアで見続けて、私の心理状態までもきつくなってきていた。ウクライナ人の知り合いが特にいるわけでなく、国を訪ねたこともないが、一国が他国に対し突然侵略行為を開始したことが、ものすごいショックだった。そして、この戦争が引き金になって、世界各地の内戦の数々、その被害者のことまでが、頭をぐるぐる回りだした。私は途上国援助の仕事をしていたので、過去内戦があった中米、アフリカ、中近東の国々も訪ねて当時の様子を聞く機会があったし、イエメン、アフガニスタン、エチオピアなど、現在も内戦や紛争が絶えない国の出身で親しい人々もいる。その人たちの心痛が一気に自分に押し寄せてきてしまったのだ。

たまらずに折った黄色と青の折り鶴

私は、SJA(Study Japanese in Arlington)というヴァージニア州の非営利グループを通し、日本の文化紹介の一環として、折り紙を教えるボランティアをしている。いたたまれず、自宅においてある折り紙の中からウクライナ国旗の黄色と青の紙を取り出し、鶴を折り始めた。折り鶴は、日本では平和のシンボル。広島の平和記念公園で見た折り鶴を掲げている禎子の像と、その下に飾ってある子どもたちが贈呈したあふれんばかりの千羽鶴が急に思い出された。ウクライナで起きている戦争に思いをはせ、また、日本とウクライナが、たまたま原子力に関係する過去の悲劇を抱えているという共通点なども思ったりして、ウクライナの戦争が一日でも早く終結してくれることを切願しながら、自然に指が鶴を折りだしていた。

折りあがった黄色と青の折り鶴をみつめながら、そうだ、私の折り紙YouTubeチャンネルに、鶴の折り方と、折り鶴を使った簡単なオーナメントのアイデアをのせて、一人でも多くの人たちに、折り鶴でウクライナの平和を願ってもらうのはどうかと思いついた。せかされるように、鶴の折り方を録画し、黄色と青の折り鶴と、手元にある材料でこしらえたオーナメントの写真を入れた動画を、YouTubeにアップロードした。YouTubeの登録者だけでなく、折り紙関連のLineグループやSJAの理事達などにも動画のリンクを送った。

YOU-CRANEプロジェクト開始―ウクライナへの募金を募るオンライン・イベント

それでほっと一息ついたものの、だからSo what?という空虚感に急におそわれた。YouTubeを通し、折り鶴で平和を祈ろうという動画を出したけど、これが何につながるという具体的なものもないし…。虚しい無力感を感じている時に、突然SJAの理事から、私のビデオにある折り鶴のオーナメントの作り方を教えて、ウクライナへの募金を募るオンライン・イベントを開催したいという申し出があった。私のYouTubeの登録者は限られているけれど、SJAと私のYouTubeとの共同イベントを行えば、さらに多くの人々への広がりができる。また、個人だけで具体的な行動を起こすのに踏み込めずにいたが、SJAと共に募金活動もできるのは、思ってもみなかったことだ。なにより、ただ寄付を集めるというだけでなく、賛同してくれる人々が、Zoomを通し一緒に鶴を折ってオーナメントを作るというプロセスがあるのもいい。Ukraineは、英語の発音だとウークレインでなくユークレインであることから、SJAの理事長が、このイベントを折り鶴とひっかけてYOU-CRANE Projectと命名したのも、洒落ていて気に入った。

集まった寄付金は、Washington DCベースの有名シェフ、Jose Andrésが立ち上げた緊急食料援助NPOのWorld Central Kitchen(WCK)に渡すことと決めた。WCKは、2010年のハイチ地震時から、自然災害や人的災害の起きた被災地(アメリカ国内および世界の様々な場所)に即時行き、食料援助を行ってきている。2020年2月には、コロナ集団感染により、横浜に停泊を余儀なくされていたダイアモンド・プリンセス号のすぐ前のドックに、食堂付きトラックを数台留め、乗客と乗員の食事を提供したので、日本でもその名は知られていると察する。WCKは、ウクライナにも戦争が勃発した18時間後に既に入り、食事の供給を開始した。現在は、ウクライナ内と隣国8か国で、日に百万のウクライナ人向け食事を提供している(注)。

3月20の日曜の朝、YOU-CRANEのオンライン・イベントには、30人くらいが参加してくれ、親子の参加者もいたのがうれしかった。オンライン・イベントの良い点は、アメリカの様々な都市に加え、ヨーロッパの国から加わってくれた人たちもいたことだ。

オーストリアから母親と一緒に参加した男の子作成のオーナメントは、ウィーンのウクライナ難民収容所に飾られた

オーストリアから母親と一緒に参加した男の子作成のオーナメントは、ウィーンのウクライナ難民収容所に飾られた

最初にSJA理事長が、イベントの目的と寄付金の贈呈先WCKについて簡単に述べた後、私が、なぜ折り鶴が日本において平和のシンボルであるか、禎子と千羽鶴の話を交えて説明し、鶴の折り方を教えた。それに続き、他のSJAの折り紙ボランティアの方が、折った鶴とビーズを使い、Peace for Ukraineと記した紙も添えてオーナメントにする作り方のデモンストレーションをした。Zoomを通しての一時間ばかりのイベントであったが、参加者が一同となって鶴を折り、ウクライナへの平和の願いを共に分かち合えた気がした。オンライン・イベントに参加できないが寄付はしたいという方々も何人かいて、全部で$2200位の寄付が集まり、後日WCKのウクライナ人への活動支援として寄贈された。ここで、イベントに賛同して下さった方々へ、深くお礼を申し上げたい。

黄色と青の千羽鶴をウクライナ大使館に贈呈

このYOU-CRANEプロジェクトは、その後も展開している。オンライン・イベント直後、SJAの理事長と折り紙チームメンバー5名で、ウクライナ国旗にみたて、下半分が黄色、上部が青色の千羽鶴を作り、一番上にPeace for Ukraine – SJAというメッセージを添え、ワシントンDCのウクライナ大使館に贈呈した。私たちを迎えてくれた大使館の広報担当官は、非常に喜んでくれて、千羽鶴はウクライナハウスに飾りたいと言い、同館で開催される特別イベントに私たちを招待してくださった。ウクライナハウスを訪ねてみると、千羽鶴が、入口を入ってすぐの吹き抜けの所にかけられていて、私たちのウクライナの平和への願いが、天に届いて欲しいと思わずにはいられなかった。

ウクライナ大使館に千羽鶴を贈呈するSJAメンバー

ウクライナ大使館に千羽鶴を贈呈するSJAメンバー


ウクライナハウスにかけられた黄色と青の千羽鶴

ウクライナハウスにかけられた黄色と青の千羽鶴

ハートと鳩の折り紙で、ウクライナと世界平和を祈るパネル作り

その後、SJAが5月に子ども春祭りを開催するにあたり、YOU-CRANEプロジェクトを更に続けようということになった。今度は、子どもたちに折り紙で、愛と平和のシンボルであるハートと鳩を教え、ウクライナの平和を願う黄色と青のひまわりのパネルと、世界平和を願う虹色のいずれかのパネルに貼ってもらった。その後、7月初めにヴァージニアの仏寺、恵光寺において、お盆祭りが開かれた際に、SJAもテーブルを出し、子どもたちに同様に折り紙のハートか鳩をパネルに足してもらった。今後も機会がある時に、子どもたちに平和の大切さを話しながら、折り紙のハートと鳩を作ってもらい、更にパネルを埋めて完成させる予定である。

世界の様々な所で、内戦や紛争の脅威にさらされている人たちはものすごい数におよび、国連難民高等弁護官事務所(UNHCR)によると、2022年時点で、世界全体の難民総数は2,660万人、国内避難民 (IDPs)は5,000万人以上いるそうだ。それなのに、ウクライナだけが特別にメディアや一般の人々の関心と支援を引き、西側諸国からの軍事援助金と武器供与も他の国に対するのに比べ桁外れに多く、難民受け入れもウクライナ人を優先していると非難の声も上がっている。それもあって、YOU-CRANEプロジェクト第3弾の平和を願う折り紙でのパネル作りは、ウクライナに加え、世界のすべての国での平和を願うパネルも作成するようにした。

ウクライナの平和を願う黄色と青のひまわりのパネル(ひまわりはウクライナの国花)

ウクライナの平和を願う黄色と青のひまわりのパネル(ひまわりはウクライナの国花)


色とりどりの折り紙で作ったカラフルなパネル

色とりどりの折り紙で作ったカラフルなパネル

どうしたら、平和の尊さを分かる子供たちに?

戦争終結の見通しがつかず惨劇が続いているウクライナや、世界の様々なところで延々と続いている紛争のことを思うと、このような活動が一体何の役に立つのだろうと感じることもしばしばだ。私は、特に子どもたちに平和や非暴力の大切さをわかってもらいたく、最近は子どもたちに平和の話をして、鶴や鳩を折ってもらうことをできるだけ積極的にしているのだが、子どもたちは平和といってもピンとこないのか、「ピカチュウの折り紙折りたい!ピカチュウも平和のシンボルだ」などと言い出して、苦笑してしまう。子どもたちにどうしたら平和の重要さを分かってもらえるのか?

ヴァージニアでSJAを通し、折り紙のボランティアをしていた西田直美さんが、現在オーストリア在住で、ウクライナ難民の子供たちに、最初はウィーンの中央駅、それから難民避難所で、自主的に折り紙を教えていて、その様子と写真を随時シェアしてくれている。(これに関しては、今季号のVIEWSに西田さんが記事を投稿なさっている)。アメリカで私が接する子どもたちに、この写真を見せて、自分たちと同じ年ごろで折り紙を一生懸命折っている子たちが、実はウクライナの難民で、戦禍を逃れ亡国状態になり、父親は故国に残って戦っているなどと知ったら、子どもたちも戦争の恐ろしさを体感してくれるかもしれない。他の国々での紛争の被害を受けている子どもたちの話と写真も合わせて…。幼いうちから、戦争の被害にあっている子どもたちにエンパシーを感じ、そのために戦争は絶対あってはならないと強く感じる子が一人でも多くなることが、この私に今できるほんのわずかなことかと思っている。



WCKの詳しい情報は、WCK Websiteを参照のこと。なお、Jose Andrésの人となりと緊急食糧援助活動については、今年6月にHuluを通して公開された、映画監督Ron Howardによるドキュメンタリーフィルム “We Feed People”に描かれている。私が印象に残ったのは、その迅速な対応に加え、食料援助を受ける人たちのニーズと尊厳を第一に心がけているということである。単なる食事提供でなく、その土地の材料と調理法をまず調べ、皆の嗜好にあった食事を作ること、ローカルレストランとその調理人および従員とパートナーを組み、食事の供給を行うことなどを、可能な限り実践している。

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