バケット・リストのポートランド旅行
何度も旅の広告で見たことのある灯台に行ってみたいと漠然と思うようになり、いつしか私の「バケット・リスト」(一生のうちにかなえたい夢のリスト)の一つになっていました。そして、好物のロブスターも堪能したいと。そう、北東部のメイン州ポートランドへお一人様旅行を決めました。
嬉しさのあまり、出発前のドジ
目的地が決まれば、あとは飛行機やホテルの予約、それに現地ツアーの予約もトントンと進みました。コロナのために日本への一時帰国を2回キャンセルしたので、飛行機に乗るのは3年ぶり。ワクワクしながら数日前から荷造りを始め、いざ出発。早めに空港に着いてラウンジで優雅に朝食を頂こうと空港近くのホテル駐車場に到着し、足軽やかにシャトルバスに乗り込みました。修学旅行に出るような未知の街への訪問を思い、ルンルン気分でした。
空港に到着。ほとんどの乗客が航空会社の出発カウンター近くで下車し、それぞれ何かの順番待ちをしているのを見て、初めて私は自分の荷物が無いことに気がつきました。駐車場に停めた車に置き忘れてきたのです。1人残った車内で、シャトルバスの運転手さんは私がどこの航空会社を利用しているのかと尋ねました。「ホテルに戻りますよね?ホテルに戻っていただけませんか?荷物を忘れてきました」――。運転手さんはそんな話を聞いたのは初めてだとおっしゃいました。そりゃそうでしょう。こんなドジなことするのは私くらいでしょう。赤面よりも開き直って、早めに出てきて良かったと内心安堵していました。ラウンジでは、そんな恥ずかしいハプニングなどなかったかのごとく、涼しい顔をして朝食を楽しみました。
ポートランド到着
ワシントンDCの空港から2時間近くでPortland International Jetportに到着。こぢんまりとして、木材を利用した3,700平方メートルに上る天井が素敵な空港です。ゲートを出ると直ぐにご当地のメインロブスターカフェの看板が目に付きました。続けて”Welcome to Portland”というサインを見たときはやっと来れた、着いたと興奮しました。私は初めての場所を訪れる時はツアーバスを利用して主な観光スポットを一通り見て、その中から、行ってみたい場所を決めています。実は今回、沿岸に沿って旅をしたかったのですが、とにかくメイン州は広いのです。そこで欲張りはやめてポートランドに集中することにしました。
ツアーガイドのデレックさんは知識豊富な方で、面白おかしく説明をして下さいました。彼は、オレゴン州のポートランドはひょっとしてボストンと命名されていたかもしれないという話をしてくれました。1800年代に、オレゴン州ポートランド市の創設者となる2人の入植者男性は、それぞれマサチューセッツ州とメイン州の出身者でした。オレゴンの主要都市名を決めるのに、彼らは1セントのコインの裏表で決めたということです。たまたま、メイン州出身者の弁護士、実業家のペティグローブ氏がその勝負に勝ったため、「ポートランド」に命名されたということでした。後に調べてみたところ、ポートランドという都市名はアメリカには結構多いようです。
灯台巡り
灯台はどうしても車でないと行けない場所にあるので、デレックさんの案内はとても便利でした。Portland Head Lightは何度も写真で見たことのある灯台で、今回の旅の一番の目的地でした。お天気もすこぶる良く、最高でした。この旅用に購入した自撮り用セルフィースティックも活躍。この灯台は1791年に完成したメイン州で一番古い灯台であることが分かりました。とにかく優雅で、灯台が映える景色を満喫した私はこれで旅の目的を果たせた気分にもなりました。遠くから撮った写真はプロ(?)が撮ったような出来栄えで超満足です。同じツアーの老夫婦にその自慢の写真をお見せすると「私にも送ってちょうだい!」と言って携帯番号を下さいました。私はすっかりご夫婦のお名前を忘れてしまっているのに、和気藹々とした雰囲気で、ご主人は”Me Echo, smile”とおっしゃって奥様と一緒に記念写真を撮ってくださいました。Miekoではなく、Me Echoと教えて差し上げたのですが、上手く行ったようなので、今後もこの方法でいこうと思います。
次に訪れたのがSpring Point Ledge Lighthouse。1897年に完成した、突堤の先にあるさほど大きくない灯台です。ここは遠くから見てお終いというパターンだったので、デレックさんもあまり重視していなかったのでしょう。
ツアーの行程に入っている最後の灯台は私のお気に入りでもあり、今回初めて知ったPortland Breakwater Lighthouseです。1875年に完成した、通称Bug Lightと呼ばれる可愛い灯台です。しかもワシントンD.C.とゆかりがあるのです。この灯台の建築家はワシントンの議会議事堂のドーム、及び東西のウイングを設計した同一人物だということで、なんとなく親しみを覚えました。外側に凝った装飾がなされています。
ロブスター尽くし
旅の目的第2のロブスター。口コミサイトや地元のガイドブックで調べて訪れた2箇所。それぞれ評判の良いロブスターロールを注文しましたが、期待しすぎたせいか、トキメキがありませんでした。これであればコネチカットで食べたロブスターロールの方が何倍も美味しかったと胸の内でブツブツ言っていました。3度目はデレックさんが話していたお勧めの一軒、フェリーを改造したという船上レストランへ行くことにしました。この時はロールではなく(この時点でロールは飽きていた)丸ごとロブスターを注文してみました。美味しい!最後に大満足でしたが、しばらくロブスターはお断りです。食べ飽きてロブスターを見るのも恐ろしくなりました。
余談として、ロブスターではありませんが、SNSで私がポートランドにいることを知った数人のお友達から、Becky’s Dinerでブルーベリーパンケーキまたはワッフルを食べてねと連絡がありました。そういえば、デレックさんもこのお店のことを言っていたと思い出しました。聞くところによるとポートランドはワイルド・ブルーベリーが有名なんだそうです。地元の方や旅行者で賑わっていました。私は普段パンケーキを食することはないのですが、本当にBecky’sのは美味しかったです。
旅のおまけ
ポートランドには歴史的な建造物が多く残されています。到底ここで全てを書き出すことはできませんが、その中で、いくつかご紹介します。
Neal Dow House (禁酒法を支持した政治家の家 )では私1人のためにボランティアの方が駆けつけてツアーをして下さいました。Henry Wadsworth Longfellow House (アメリカの詩人であり、教育者であるLongfellowが子どもの頃住んでいた家)は保存状態が良く、手入れされた裏庭のベンチで腰掛けているとタイムスリップした気分になりました。そしてデレックさんのツアーで紹介され、私のお気に入りになったVictoria Mansionも素晴らしかったです。1800年中頃に完成した近代的な建物で、壁紙ではなく、壁画となっていて、とにかく豪華絢爛。もう一度、訪れてみたいところです。
ポートランドの良さは歩きやすいこと、そしてどこにいても道を渡ろうとすると車が親切に停まってくれたことには驚きました。歩いて、歩いて、毎日12,000歩は歩いていました。何よりも旅の最後のハイライトは前の晩にミシガンから到着したアガサとマーカスという若いカップルと出会えたことです。帰途に着く前に朝食をいただいていると、この若い2人が窓際に座ったのですが、それがとても様になるのです。思わず写真を撮り、写真を送ろうかと尋ねたら、アガサは電話番号をくれ、私の名前も教えますよと言って、私の携帯にSt. Johnホテルのお友達と登録してくれました。しばらくどんなところに行った、どこがお勧めであるとかいう話をして、お別れとなりました。ワシントンに戻ってから、彼らの旅の最終日に私が行けていないだろうと思う写真と一緒に2人のツーショットも送ってくれました。彼らにしてみれば母親、下手すればおばあちゃんの年齢の私とも分け隔てなく接して、この心優しいジェスチャー、正に旅のおまけとしか言えません。彼女からのメッセージと写真は私を自然と幸せな気分にしてくれたのです。ありがとう、アガサ。
また、いつか訪れてみたいと思わせてくれるくらいハッピーなポートランドへの旅でした。
和歌山県出身。アメリカに移住する前は、パナマ及びリベリア船籍貨物船の二級無線通信士として乗務。現在は日系の会社に勤務。ワシントンDC在住。