市民社会の一員として

国際開発協力の仕事にかかわりたい、と子供の頃から漠然とした夢を抱き、英国と中国で語学留学、日米韓の大学・大学院で経済と国際学を専攻した。日本の大学院を卒業してからは30年という時が「光陰矢の如く」流れた。転勤族の夫との結婚や3人の子育てのため、国際機関や民間での戦略コンサルタントとしてのプロジェクト実務経験は15年強、細々としか蓄積できなかった。そんな紆余曲折や挫折を経て辿りついたのは、非営利組織(NPOセクター)で開発に携わることだった。

SDGs時代の非営利セクター

国連ミレニアム開発目標(MDGs: Millennium Development Goals)時代の最終年2015年に、米国メリーランド州に拠点をおくスタンダード・エクセレンス・インスティテュート(SEI)から非営利組織アドバイザー資格を取得した。2030年までの実現に向けて2016年から始動した持続可能開発目標SDGs(Sustainable Development Goals)は、MDG時代のトップダウン型開発ではなく、コミュニティ主導型の開発とガバナンス、民間セクターとの戦略的パートナーシップ、そして開発最前線で活動する多くの非営利組織(NPO)なくして実現できないことが明確だったからだ。ちょうどその頃、非営利組織の倫理・説明責任規則を普及させ、各NPOにその実施と内部監査を促し、NPOセクター全体のレベルアップを図り、政治・経済・社会・芸術などの各分野でのインパクトを最大化していくことを目指すSEIという組織の存在を知ることになった。その使命に共感し、資格認定を受けて、微力ながらグローバルNPOセクターへ貢献したいと決心した。

非営利組織の倫理・説明責任規則

スタンダード・エクセレンス・インスティテュート(SEI)は、NPOガバナンス・運営において最低限必要な規約を6項目に集約し、NPOにその6項目についての内部監査実施を推奨している。その項目とは次の通り。

(1)組織使命・戦略・評価
(2)リーダーシップ:理事、スタッフ、ボランティア
(3)法令遵守と倫理
(4)財務及び事務管理
(5)資金調達
(6)市民意識の普及啓発、エンゲージメント、アドヴォカシー
各項目について紹介したい。

(1)組織使命・戦略・評価

まず、NPOの組織使命・ヴィジョン・戦略が明確化されているか?また、その合意形成「リザルトチェーン」が、関係者(理事、マネジメント、スタッフ、そしてステークホルダー)に共通認識として共有されているか、が問われる。つまり、NPOのプログラムやそれをサポートする業務活動が、組織規約に明記された組織使命・ビジョン・戦略と「リザルトチェーン」を通してリンクしており、その使命を達成するために、効率性が高く、インパクトを最大化でき、しかも、実効性ある手段を取っているか。また、NPOのプログラムやそのサポート業務の外部・内部評価を実施し、そこから得られる教訓が活かされるフィードバック・システムが構築されていることを確認する必要がある。

(2)リーダーシップ:理事、スタッフ、ボランティア

本規約には、NPO組織使命を達成するためのリーダーシップとガバナンス、特に理事会とマネージメントの役割分担と両者の最も健全かつ生産的な関係構築の重要性が名記されている。その遵守がNPOガバナンスの成否をほぼ決定すると言っても過言ではないだろう。

その理事会の役割としては、特に受託者責任・義務、チーフ・エグゼクティブの任命及び監督・評価責任、理事会の効果的運営、持続的リーダーシップのための方策、各理事の独立性と無償サービス提供、理事会や各下部委員会の頻度と運営、が骨格として列挙される。

一方、マネージメントは、日々のプログラム・サポート業務の運営・管理、理事の活動の側面支援、組織の持続性を維持するための人材・資金配分と人事管理を行うことが主たる役割となる。

(3)法令遵守と倫理

各NPOが登記されている国の法律や規制を遵守することは最低ラインとして位置づけられる。社会的信頼を得て運営されなければならないNPOはそれを越えた倫理感を堅持し、そのプログラムを運営しなければならない。そのためNPOが実施すべき項目としては、その活動の透明性を保つための情報開示とその内部責任者の任命、不正行為や職権乱用が発生した場合、倫理観と中立性に裏付けされた内部通報が安全かつ健全に行われるシステムが組織全体に浸透していること、利益相反や利害関係の明確化とその報告義務等である。

(4)財務及び事務管理

財務運営管理規約では、財務予算管理・報告・モニタリング、またNPOの規模や組織形態に沿った財務管理方針が実施され、特に内部統制の明確化、人事管理方針、リスク・マネージメントとその対策が列挙されている。また、資金調達では、健全な財政サステナビリティを保つために、組織使命と組織のキャパシティに合った資金調達計画を策定し、最も適切な資金源とその多様化を図り実施しなければならない。

(5)資金調達

その際、資金調達のための広報資料の正確性、またドナーが意図した資金用途についてのモニタリングが重要になる。資金調達活動において多くのNPOが直面する最大の課題は、組織ミッション・ビジョンの達成は中長期間かかるにもかかわらず、その成果「リザルト」を短期で明確に示すことが要求されることだろう。そこで第一項目にあげた、組織使命・ビジョン・戦略とその評価がここでもNPOの持続可能性に関わる重大な役割を果たす。

(6)市民意識の普及啓発、エンゲージメント、アドヴォカシー

最後に、NPOが掲げる使命やビジョンについて、市民意識を喚起するその普及・啓発活動と、また、政策決定者等のステークホルダー・エンゲージメントやアドボカシー活動の両輪が必要となる。NPO組織使命の実現とそのインパクトを最大化するためには、この両者の最適なバランスを捉え調整しながら前進しなければならない。市民意識を喚起する際に使用するメッセージの情報の正確性とそのアクセシビリティはもちろん、市民やステークホルダーとの最も効果的なコミュニケーション手段と接点をステークホルダー毎に模索・構築することが必須となる。

市民社会の一員として

スタンダード・エクセレンス・インステイテュート(SEI)の非営利組織の倫理・説明責任規則を簡潔に紹介したが、この枠組みは、NPOの規模、セクター、活動する国にかかわらず、そのガバナンスの内部監査を実行する上で、組織の強みや弱点を認識し改善策を講じるためのチェックリストとして役立つだろう。

私自身も、英国に拠点をおくグローバルNPOのヘルプエージ・インターナショナルの理事として、特に中低所得国で高齢者の権利を守り健康で活力ある高齢化を促進する活動に携わっている。現在NPOの理事やマネジメントに携わる人やスタッフのみならず、これからNPOの設立を模索し計画する人、寄付やボランティア活動を通じてNPOに貢献したいと願う人たちにも、非営利組織の倫理・説明責任規則を活用してほしい。SDGs時代の市民社会の一員として非営利組織ガバナンスについての理解を深めるためのツールとして、必ず役立つはずだ。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です