合理性と才気あふれるオランダ気質

アムステルダム市内での最大の移動手段は自転車だ

アムステルダム市内での最大の移動手段は自転車だ

なぜオランダに拠点?

日本のメディアとして唯一、オランダに拠点を置いているのが私の勤務先だ。2013年にアムステルダムに赴任し、6年近くとなる。日本向けテレビ番組の現地ロケ、映像コンテンツの権利買付、美術展の企画・コーディネートなどを主な業務としているが、よく受けるのが「なぜ子会社を小国のオランダに作ったのですか?」という質問だ。

オランダといえばチューリップ キューケンホフ公園にて

オランダといえばチューリップ キューケンホフ公園にて

一つは、ヨーロッパどこへ行くにも足回りが良いこと。例えば、空の玄関・スキポール空港までアムステルダム中央駅から電車で20分以内、オフィスのある南駅からは急行で一駅、たったの6分とアクセスは抜群に良い。

自宅アパートの窓から。オランダの冬は寒く暗いが、運河が凍結するのは珍しい

自宅アパートの窓から。オランダの冬は寒く暗いが、運河が凍結するのは珍しい

外国人が元々多く英語が公用語なみに通じること、多様性や寛容を重んじる国民性、外国人駐在員への税制優遇措置など、様々なメリットが指摘される。オランダに子会社設立という選択は実利的な理由が主だったが、住んでみると学ぶことは実は多い。

合理主義、そしてゲーム・チェンジャーを目指す気概

ひまわりジャケット着用のゴッホ美術館アクセル・ルガー館長と筆者

ひまわりジャケット着用のゴッホ美術館アクセル・ルガー館長と筆者

カリスマ性があり、人を引き付ける力を持つ人物を「ロック・スター」と称することがあるが、ゴッホ美術館のアクセル・ルガー館長はまさにそうだ。2015年の新館完成のお披露目レセプションでは、ゴッホ作品の中でも最高の傑作《ひまわり》をあしらったジャケットを見に付け登場、ライブバンドをバックにスピーチし、会を大いに盛り上げた。

市内中心部にあるゴッホ美術館は、《ひまわり》をはじめとする世界で最多数のゴッホ作品と、本人の手紙などの資料も所蔵、研究拠点としても権威ある美術館だ。それだけで既に観光名所だが、ルガー館長のリーダーシップのもとで、人気DJをフィーチャーしての館内ダンス・イベント、ソーシャル・メディアの活用、ゴッホ作品を「知的財産」と位置付けてのデジタル・アート展覧会や商品開発などのライセンス・ビジネスなど、お固い美術館とは異なる存在感を示している。「この世界でのゲーム・チェンジャーを目指す」とは、ある館員が私に言った言葉だ。

オランダが生んだキャラクター、ミッフィー。ゴッホ美術館ギフトショップでは、“ゴッホ・バージョン”が人気だ

オランダが生んだキャラクター、ミッフィー。ゴッホ美術館ギフトショップでは、“ゴッホ・バージョン”が人気だ

余談だが、そのルガー館長、ある平日の午後、ゴッホ美術館をふらっと訪れたところ、チケット売り場のブースに姿が!一瞬「そっくりな人」かと思ったが、笑顔で「Hi, Yuko」と言われ仰天。聞くと、幹部を含めたスタッフ全員が、チケット販売、ギフトショップ、監視員、クローク係などの現場の仕事を年に数回担当する義務を課しているという。「ビジターとじかに接して、何が必要とされているかを自ら感じることが重要」との説明だった。トップ自らチケット売り場に座る美術館が他にあるだろうか?

イベント撤収時、ひまわりを“お持ち帰り”する人々

イベント撤収時、ひまわりを“お持ち帰り”する人々

「ひまわりラビリンス」で使われた花を持つ子ども

「ひまわりラビリンス」で使われた花を持つ子ども

前述の新館お披露目では、特別イベントとして美術館前の広場に大規模な「ひまわりのラビリンス」が出現して市民をびっくりさせたが、数日後の撤収の際「ひまわりお持ち帰り自由」とのメッセージが拡散された。市民が次々とくたびれかけたひまわりを集め、(私もありがたく頂いた)自転車に積んでいった。合理的、あるいはケチとして広く知られるオランダ人だが、せっかくのひまわりを廃棄するよりは…、というオランダ式「もったいない」精神を見出す機会だった。

首相周辺も合理的

オランダの合理主義は政界の中枢でも垣間見える。知人の外交関係者によると、ルッテ首相の外国訪問は「首相本人プラス7名」が基本単位とのこと。その7名の内訳は、政策担当2名、プレス担当が2名、日程など実務担当2名、警備が1名。首相の外国訪問には100人超の体制で臨む日本に比べると、圧倒的に「少数精鋭」だ。ルッテ首相自身、現場で混乱があっても我慢するか、その場で臨機応変に対応するそうだ。逆に言うと、リーダーの優秀さが問われるということのようだ。トップが「忍耐と柔軟性と頭の良さを兼ね備え、部下の雑さ、粗さをカバーする必要がある」とも指摘する。

オランダでは、リソースが限られる中で最適な結果を目指すというスタンスがはっきりしている。この知人は、「少人数で最小限の仕事をするという覚悟と、ある程度は目をつぶるという達観によって、効率性と意思疎通のスピード化を実践しているオランダに敬意を感じた」という。

様々な主張が飛び交うオランダ

そんなオランダ、比較的安全な国とのイメージも手伝い観光地として人気が上昇する一方なのだが、地元の負担にもつながるため観光客を制限すべきとの声も出ている。その象徴的エピソードが、アムステルダムのスローガン「I amsterdam」をめぐる論争だ。アムステルダムを盛り上げるためのキャンペーンの一環として2004年に採用された。

I amsterdamロゴ入りTシャツ

I amsterdamロゴ入りTシャツ

「I am」(私は)と、都市名「Amsterdam」を一体とした文字遊びの楽しさ、赤と白の鮮やかな色合いといい、私自身とても気に入っている。ノヴェルティ・グッズも多く売り出され、大型文字のオブジェが国立美術館を背景に設置され、インスタ映えを狙う大勢の観光客で常にごった返していた。1日あたり6000ものセルフィーが、この場所で生み出されたそうだ。

しかし、一部政党は、このオブジェは一人称「I」が象徴する「個人主義」をあおり、本来アムステルダムが尊重すべき価値観―市民の連帯、団結、協調-に逆行していると主張する。これに観光客増加は我慢ならないとの声が共鳴し、市の要請として撤去が決定。2018年末にこの場所から姿を消した。

撤去される国立美術館前のI amsterdamのオブジェ Credit: SeeitYourself.nl, Jan-Kees Steenman

撤去される国立美術館前のI amsterdamのオブジェ Credit: SeeitYourself.nl, Jan-Kees Steenman

ただ、撤去された大文字は廃棄されず、これまで光の当たってこなかった場所を「ツアー」するそうだ。観光名所とセットでないところに、どれだけ光が当たるのだろうか。オランダ人ならではの奇抜な発想で驚かせてほしい。

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