The Minimalists

実家の片付けで得た教訓

日本で一人暮らしだった母が数年前に亡くなった時、40年来家族が暮らした家の整理をする事になりました。経験のある方にはきっとご理解いただけると思いますが、頭でわかっていてもできないのがモノの整理。長年ためにため込んだ事物を一つ一つ分類し、使えそうなものを人にあげ、古着や古本を捨てる山に積み上げて、いくらやっても減らないゴミをため息とともに見つめる日々でした。

認知症の進んでいた母は、お気に入りの銀座の店から買って来た文具を、封も開けずにため込んでおり、いくら片付けても、同じものが次々と出てくるのでした。老母が大切に集めた写真や、昔父が駐在していた外国からのお土産物など捨てるには本当に忍びない、だからといって、アメリカに持って帰れるわけでもない。趣味でお習字や日本画を描いていた母の習作なども、貰い手を見つけるのに一苦労。お片付けによる、疲労困憊の末、ストレスで涙が止まらないという状態にまでなりました。

この経験から、次の世代にモノの先送りをしてはいけないと心に言い聞かせ、コンマリさんなど断捨離の本を読みあさった日々。そして、行き着いたのが、アメリカの二人の青年の提唱する「ミニマリスト」というライフスタイルでした。

「ザ・ミニマリスト」

自分たちを「ザ・ミニマリスト」と呼ぶ30代の青年二人、ライアン・ニコデーマス、ジョシュア・フィールズ・ミルバーン。二人はオハイオの貧困家庭で育ち、その反動か20代は稼いだお金を、モノの消費につぎ込むという生活を続けていました。収入以上の消費で借金はかさみ、台所は火の車。表面の成功とは裏腹に、心は満たされない生活。二人は「心の空虚さをモノで満たそうとしていた」とその頃の生活を振り返ります。

「お金はできたけど、結局親たちと変わらない生活をしている自分に気が付いた」――。ストレスたっぷりの不規則な生活で、娯楽といえば、酒、麻薬、買い物。ライアンの体重は不健康に増え、イライラと不機嫌な事が多い鬱の状態でした。その頃、ジョシュアも、アル中の母親が肺がんで亡くなり、同じ月に数年連れ添った奥さんとも離婚する事になりました。30代になるかならないうちに「幸福って一体なんだろう」と考えるチャンスが、二人に巡ってきたのです。

生活を簡素化し、本当に必要なモノ、大切な人、人間関係を見つめ、ミニマムで生きてみようと決心したのはジョシュアの方が先でした。「ミニマリズムって呼ぶらしいよ」、ジョシュアは、ライアンにそう伝えました。ジョシュアはテレビがない生活から始めました。次に、家にケーブルもインターネットもない生活を数か月。携帯のない生活も実験。衣服も90日間着なければ処分。本も読み終わったら寄付。思い出の写真はデジタル化。スーパーに行く時も、買い物リストになければ、たとえセールでも衝動買いは一切しないという自己訓練も始めました。リビングが二つもあった持ち家を処分、新しくできた心の空間の中での自分探し。どんなに高価なモノに囲まれていても、得る事が出来なかった素晴らしい贅沢が、その空間にある事に気が付いた時、巡り合ったのがミニマリズムでした。

アメリカの平均家庭には、何と30万個のモノが溢れているのだそうです。ほとんど使わないダイニングルーム、巨大なホームシアター、箱に入ったままのギフト、いつか使う事もあるだろうと取ってあるモノ、モノ、モノ。そして、モノに占領されて、いつしか小さくなった空間で生活している人間たち。それでも足らずにミニ倉庫を借りて、モノを保管している人々。それでも飽きずに血眼になってセールに駆け付ける消費者たち。相手の都合も考えず、買っては与えの親切押し売りの私たち。テレビでもネットでも、新しいモノを買わなければ、何かが不足しているように思いこまされている現代人。知らず知らずのうちに同じ価値観を、次の世代に伝えてしまっている私たち。

現代のミニマリズム哲学

現代のミニマリズムは、モダンアートや建築、音楽分野で始まったそうです。シンプルで簡素化され、原点に戻ったデザインやパターン。そこには、例えば日本の竜安寺や禅文化からの影響も強くあったとか。コンセプトとしてのミニマリズムは、物質主義、消費主義に背を向け始めた新しい世代の心をつかみました。果てしなく買い求める消費文化への反動は、モノを簡素化する事から心の簡素化への最短距離だったのです。

シンプルライフは、単なる断捨離や整理整頓だけではない、とミニマリストの二人は宣言します。「必要なモノは買って使おう。簡素化するのはモノ、出費だけでなく、人間関係も。情報も。ストレスもだよ。」モノが自分達を幸福にしないなら、一体何が幸福にするのだろうと考えてPassionとMissionに行きついたミニマリスト。二人の青年のライフスタイルは、20万人の心をがっちりとつかみました。

「人は愛そう!モノは使おうよ。だって、その反対じゃあ、うまくいきっこないんだから」
Love People, Use things; because the opposite never works

二人の若者たちに教えられ「これ、もったいない」の誘惑の声に背を向け、いつか「私もミニマリスト」と言える日が来るように、日々修行の毎日です。

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