外交官一家の断捨離問題と私の作戦

外交官ファミリーとして各国を転々とした我が家にはモノが多い。めちゃくちゃ多い。退職も遠くない今、実践し始めた断捨離作戦について、述べてみたい。特に日本とアメリカで暮らす方々には参考になることも多いかと思う。

我が家にモノが多いわけ

外務省員は、必然的に断捨離が難しい事情を抱えている。我々は2、3年毎に引越しを繰り返す。他省庁から大使館へ出向する人は、1回きりの海外赴任のためか、前任者から家財道具一切、時にはアパートの部屋ごと引き継ぐようだが、引越し族の外務省員は、原則、引き継ぎをしない。借りる家やアパートは大抵空っぽであるから、家具から食器から自分で用意しなければいけない。大変である。それなのに、なぜ家具も食器も引き継がないのか?それは外交官にとって、接客が仕事の大きな一部であるからだ。

お客様を玄関から居間にお通しする。客は、誰でも人の家に招かれた時にそうするように、壁から家具から置物からぐるりと見渡し、住人の趣味を査定し、「素敵ですね」、「珍しいお品ですね」などと感心してみせ、「これはどこのものですか」など質問する。調度品が緒となって、共通の趣味を発見したり互いの思い出話を交わしたりするうち、親近感が増し、会話が弾んでいく。

どの国にも感激するような工芸品というものがあるから、社交に役立つという口実のもと、赴任するたび、旅行するたび、大小お気に入りの品を買ってしまう。食器類も、和洋取り混ぜ、24人分のビュッフェができるくらい用意してしまう。

調度品だけではない。人と会うフォーマルな機会が多いから、きちんとしたスーツから、華やかな着物やドレス、バッグ、靴、アクセサリーと、どんどん買ってしまう。だって、たくさん要るのだもの。

そうだ、我々は日本の外交官として、殺風景な部屋で安っぽい食器、いつも同じ服でおもてなしなんかできない。日本の代表として恥ずかしい。そうだ、我々は調度品も食器も服もたくさん要るのだ。

本当は、これは口実。実は、ほとんど「必需」と称して買った物欲の賜物だ。ミニマルな量の物で過ごす快感は知っている。新地に赴任して、船荷が到着する前の2ヶ月間、最小限のもので暮らす。パンツもブラもシャツも3枚で十分。物がないから掃除も簡単。なんてすっきり。なんて快適。そこへドンと届く200箱の荷物。ぞっとする。特に日本に帰ったとき、置く場所がなくて、途方にくれる。

十数回という引越しを繰り返し、疲れてきた。退職だってそう遠くはない。断捨離は、中年以降の人間にとって老い支度の一環である。捨てられない戦争世代の親の荷物整理に辟易し、自分はそうならないぞと誓う。今のうちに減らそう。作戦はスタートした。

私の作戦

ゴミにするのは最後の手段である。「もったいない」精神は生来しみついているので、できるだけ、リサイクルの手を講じる。リサイクル手段は、新品にこだわらない若い世代の台頭とともに、日米で充実してきている。さらに、インターネットのおかげでニッチな市場、本当に欲しい人にアクセスできるため、心を痛めずモノを手放せるようになってきた。FedEx, UPS, 日本郵政、ヤマト運輸など、流通業界がリサイクル業者とタイアップするようになってきて、リサイクル市場を後押ししている。

不要品の処分方法(1)中古品として売る

アメリカは高級な不用品を持ち込んで、委託販売してくれるconsignment store(委託店)が多い。(日本は買取が主で、箱がないと引き取ってくれないことが多い。)私はアメリカでは、ブランドもの、ジュエリー、骨董などをRealRealに託す。RealRealは全国展開のオンライン高級中古品販売店として地位を確立している。高級品の真贋を確かめた上での販売で、価格も商品の状態に応じて適正に決めてくれているので、安心してブランド物を安く買いたい消費者に人気がある。FedExと提携し、委託の面倒さや費用を最小限に抑え、全国から品を豊富に集めているのが特徴。

委託制度は、ローカルな実店舗でもオンライン店舗でも、大抵手数料が売り上げの50%と高い。でも断捨離のためには、儲けようと思ってはいけない。私は中古で買ったブランドものや、流行遅れのジュエリーを引き取ってもらったら、ちゃんと売れた。(ちなみにRealRealは日本に進出したが、日本の既存リサイクルシステムに負けて、撤退している。)

日本ではヤフオク(ヤフー・オークション)をよく利用した。亡くなった義母の裁縫箱から出てきた古い小さなレース編み道具は、競り上がり、驚くほどの高額で落札された。「嬉しい、大切にしたい」というコメントをいただいた。ほかにも使わなくなった道具や、布地などをまとめて安く出品すると、全国から欲しい人が入札してくれた。ただ、ヤフオクは出品の手間、入札の手間、発送の手間などから、時間に余裕があるときでないと無理。

現在の日本では「メルカリ」が急成長してきた。ヤフオクと違い、出品者の言い値で買うのが基本。私の大学生の次男は、服はほとんど新品で買わない。地元のリサイクルショップかメルカリで買う。買うのも売るのもヤフオクより簡単だし、ラベルの印刷も発送も含めコンビニで済ませられる。出品者は購入者に名前や住所を明かさないことも可能。メルカリはアメリカにも進出しているが、アメリカでは、eBayがヤフオクとメルカリを兼ねていて、人気がある。

本のリサイクルは何と言ってもAmazonが便利だ。我が家には本も多い。亡くなった義父の書斎には、床が抜けそうなほど大量の本があった。だが、よく考えると、図書館が充実している都会では本当に手元に必要な本は案外少ない。本は欲しい人に譲るべし。そう決心して、私は日本のAmazonで何冊もお譲りした。Book-Offのリサイクルも有名だが、古い本は引き取ってくれない。しかし、古い本であっても、探している人はいるものだ。まずAmazonのサイトで、本のタイトルを検索する。載っていれば、出品できる。本の傷み具合を書いて「出品する」ボタンを押すだけでよい。私が学生時代に使った書き込みだらけの古典的名著を、留学生らしき研究者が買ってくれた。値段よりも何よりも、愛おしい本が、今現在欲しい人の手に渡って、本当に嬉しい。

不用品の処分方法(2)もらっていただく

売るほどではないが、状態の良いカジュアルな衣料は、救世軍(日・米)、Good Will(米)など、地元で不用品を活用している団体に寄付する。机やベッド枠など大きな家具類は取りに来てくれるので、早めに予約する。忘れてはならないのは、着古したものや、ドレッシーなものは必要とされないから、「もったいない精神」と共に捨てることだ。慈善団体をゴミ箱扱いしてはいけない。

我が家の場合、正念場は退職後である。莫大な調度品をどうするか。息子たちには、彼らの記憶に残る小ぶりの品しか残さない。こちらの思い出を押し付けても困ってしまうのが目に見えるから。

おわりに

私の母は捨てることができない人だった。「お母さん、元気なうちにモノを整理しておいてよ」。今にして思えば、必死で育ててくれた親に、なんと残酷なことを言ってしまったものか。いつか読んだエッセイを思い出す。「歳を取ったら断捨離しろと言われているが、好きなものに囲まれて暮らして何が悪い、たくさんの思い出のものと共に過ごす、欲しいものは買う、歳を取ったって、人生どんどん開いて行っていいじゃないか」。

そうね。断捨離はやりたい人がやればいい。モノに囲まれて、のんびりと開いて行く人生も、また、いいはずだ。


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