選択的夫婦別姓に向けた希望

選択的夫婦別姓の導入は、1996年の法制審議会(法務大臣の諮問機関)で答申されたものである。いくどか変革の機運が高まることはあったが、その都度、「家族の絆が弱まる」、「旧姓の通称使用の拡大で対応できる」、「夫婦同姓は日本古来の伝統だ」、といった自民党内の反対派の主張に押しつぶされてきた。

2021年6月23日、事実婚の男女3組が別姓での婚姻届を受理するよう申し立てた家事審判に対し、最高裁大法廷は別姓を認めない民法などの規定は憲法24条(婚姻の自由)に違反しない、と再び判示した(以下、2021年判決)。2015年判決を踏襲した内容で、「この種の制度のあり方は国会で論ぜられ判断されるべき事柄」としめくくった。「またか」、と落胆したが、2015年判決以降の流れを振り返り「次」に向けた希望の芽を探ってみたい。

あきらめない

「日本の伝統」は制度改革に反対するときの常套句。このフレーズが出てきたときは事実関係を確かめるようにしたい。「伝統」とはいつからのことか。江戸時代に公式に名字をもっていたのは武士以上の階級に属する人びとだけである。武家の女性は結婚後も実家の名字を名乗っていた。一般の人びとが姓を名乗るのは明治以降のこと。1876(明治9)年の太政官指令には、妻は「所生の氏」(実家の氏)を用いるようにとあった。妻は夫の姓を名乗ると定めたのは明治民法である(1898(明治31)年)。

2015年判決以降、夫婦別姓をめぐる「国民的議論」は着実に深まってきた。2021年判決で違憲とした4人の判事の意見はそれらを反映したものだ。三浦守裁判官は、夫婦で姓を統一しないと婚姻の成立を否定する同姓規定は、婚姻に対する「直接的な制約だ」と明言。宮崎裕子裁判官と宇賀克也裁判官は共同意見で「婚姻についての当事者の意思決定を抑圧し、婚姻の自由を妨げる不当な国家介入に当たる」と憲法24条違反を強調した。草野耕一裁判官は、夫婦同姓支持者による伝統文化言説に対して、「伝統的文化の存続を法の力で強制することは、憲法秩序に適う営みとは言い難い」と述べた。

2020年12月25日第5次男女共同参画計画案が閣議決定された。内容をみると、第4次計画にあった「選択的夫婦別姓の導入を検討」するが削除され、「戸籍制度と一体となった夫婦同氏制度の歴史を踏まえ、家族の一体感や子どもへの影響、最善の利益を考える視点も十分に考慮し、さらなる検討を進める」に変わった。選択的夫婦別姓の実現を求める立場からは、後退した印象をぬぐえない。

内閣府世論調査(2017年)では、67%が選択的夫婦別姓を容認し、法改正の必要なしとする回答は29%にとどまった。第5次計画素案に対するパブリックコメント(2020年8月1日~9月7日)には、選択的夫婦別姓を望む声が400件以上寄せられ、反対意見は「ゼロ」であった。自民党内の反対派の動きを懸念する市民グループ「#男女共同参画ってなんですか」は、12月2日、3万2235人の署名を橋本聖子男女共同参画担当相(当時)に届けた。第5次計画はこうした声を無視するかのように閣議決定されたことを、「次」につなぐため記しておく。

2016年、国連女性差別撤廃委員会は、日本政府に女性が婚姻前の姓を保持できる法改正を行うよう勧告した。これは3度目の勧告である。日本政府は夫か妻かどちらかの姓を選べるのだから平等だと主張する。しかし96%の夫婦が夫の姓を選んでいる現状は、不自然であるばかりでなく、女性差別の意味合いをもってしまう。女性差別撤廃条約の批准から35年。国会で議論すら行わないのは立法府の怠慢という他ない。

民法と戸籍法の矛盾

「憲法は変えられても戸籍制度は変えられない」と主張する人びともいる。2021年には上記の他に選択的夫婦別姓に関連する2つの判決があった。ひとつは4月21日東京地裁判決で、戸籍制度の不備を明らかにしたもの。もうひとつは6月24日最高裁小法廷判決で、「民法上の氏」と「戸籍法上の氏」に着目したもの。どちらも原告は敗訴したが、「国民的議論」を深める新たな論点を提起することになった。

東京地裁判決

2018年、1997年にニューヨークで別姓結婚した日本人夫婦が東京地裁に夫婦別姓確認訴訟を提起した。被告(国)は氏を統一していない婚姻は未成立だと主張したが、東京地裁は通則法24条(婚姻の法式は婚姻挙行地の法による)を根拠に「婚姻自体は成立していると解するほかない」、と婚姻の成立を認めた。しかし氏を統一しなければ婚姻届は受理されず、戸籍を新たに新設することはできない。この方式による婚姻は夫婦が称する氏等について報告的届出を求めるが、二人とも戸籍上は未婚のままである。このため別の人との婚姻届が受理される可能性がないとはいえない。判決は図らずも法務省の誇る「世界に冠たる」戸籍制度の不備を明らかにしてしまった(注1)。

最高裁小法廷判決

結婚・離婚には、①日本人同士の結婚、②日本人同士の離婚、③日本人と外国人の結婚、④日本人と外国人の離婚の4パターンがある。このうち①日本人同士の結婚では民法上、夫婦同姓とならない限り婚姻が認められず、戸籍法上のそれまでの氏(旧氏)を続けて称する「旧氏続称」の制度がない。

一方で、②日本人が離婚すると民法上は旧姓に戻るが、届出により婚姻時の氏を「戸籍法上の氏」として称することができる(「婚氏続称」か旧氏に戻るかの選択可)。③外国人と婚姻した日本人は民法上夫婦別氏となるが、届出により外国人配偶者の氏を「戸籍法上の氏」として称することができる(同姓か別姓かの選択可)。④外国人配偶者の氏を称していた日本人が離婚した場合は、届出により元の「戸籍上の氏」に変更できる(「婚氏続称」か旧氏に戻るかの選択可)。そこで原告は、日本人同士の婚姻の場合にのみ、「戸籍上の氏」を選べないのは不平等だと訴えた(注2)。

「婚氏続称」が実現したのは1976年のこと。佐々木静子議員(当時の社会党議員)らの運動による成果である。真の目的は「夫婦別姓」だったが、当時はそうした主張ができる段階になかったため、せめて「婚氏続称」くらいは認めてほしいと要求した。

明治民法が夫婦同氏を定めるまで、同じ戸籍の夫婦でも別の氏を名乗っていた。「同じ戸籍に入っている」ことと、「同じ氏を名乗る」こととは別の話だった。「戸籍を同じにするなら姓を同じにすべき」、との考え方そのものを再考する余地があるのではないか。

戦後改革を生き延びた戸籍制度

明治に遡れば先に作られたのは戸籍法である。民法は戸籍法を前提につくられた。敗戦後GHQの指導の下で「家制度」は廃止され、「個人の尊厳」と「両性の本質的平等」を基本原理とする日本国憲法にあわせ、性差別的条項をもつ法律は改廃された。戸籍制度も個人登録制度に変更するよう求められていたが、政府は時間稼ぎをしながら主権回復のときがくるのを待った。

「家制度」が廃止されても、それを支える戸籍制度が残れば、影響を最小限に抑えられるとの判断があったのだろう。いまも戸籍制度が家族法(民法)を動かしているのではないか。戸籍とは日本国民の「身分関係」を登録し公証する制度であり、①国民登録、②身分登録、③住所(住民)登録の機能を持つとされる。法務省は、一方で「世界に冠たる」戸籍を誇りつつも、他方で「戸籍に載っているからといって日本国籍者とは限らない」状況が生じていることを承知している。外国籍を取得して日本国籍を喪失(国籍法11条1項)しても、当事者が国籍喪失届を出さなければ戸籍は残る。

まとめ

2010年代に入り両性の平等にかかわる違憲判決や法改正が相次いだ。たとえば、2013年婚外子相続差別違憲判決、2015年100日を超える女性の再婚禁止期間を違憲とする判決、そして2017年には性犯罪をめぐる刑法の改正が行われた。これらは百数十年ぶりの見直しであった。次は選択的夫婦別姓か同性婚の容認であってほしい。どちらも「婚姻の自由」を問うもの。それらを認めたからといって、選択肢を追加するだけで不利益を被る人はでない。

2021年10月5日に真鍋淑郎氏のノーベル賞受賞が伝えられると、マスメディアは「日本人」の受賞で沸き立った。しかし真鍋氏は米国籍を取得したことを明らかにしている。国籍法11条1項の自己志望による外国籍の取得にあたる。この条文も明治憲法下の旧国籍法を引き継いだものだ。

法律は私たちが幸せになるためにある。不確かな「伝統」の呪縛による思考停止に陥ることなく、実情にあわない法律は見直していくべきだろう。どういう社会を望むのか。立法府を動かすには制度改革を願う一人ひとりの思いと意思表示によるしかない。今秋から来年にかけて国政選挙が続く。選択的夫婦別姓をはじめとする「個人の尊厳」や「両性の本質的平等」に関する政策は、私たちが投票先を選ぶうえで重要な評価軸のひとつになる。


注1 参照記事:想田和弘「戸籍制度の不備を暴いた柏木(妻)・想田(夫)の『夫婦別姓確認訴訟』判決」『ウェブ論座』(2021年4月28日)

注2 詳細は「同姓も別姓も選べる社会へ―ニュー選択的夫婦別姓訴訟」参照


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