アメリカの大学入試と多様性

娘の高校での卒業式

娘の高校での卒業式

アメリカの大学入試制度について、昨年娘の受験を通して多くの気づきがありました。日本よりも生徒を全人的に見るためのシステムに感じられる一方、各ステップには実際に大学に出願するよりも遥か以前から準備していなければどうにもならない要素があり、その中には恵まれた家庭でなければ不可能なのではと思われるものも見受けられました。また、娘は父親がコロンビア人、母親が日本人であり、女性+マイノリティであることが多様性=価値として評価されるのか、それとも不利になるのかという不安もありました。

以下日本の入試制度と異なっていて興味深かった点、疑問点を挙げてみたいと思います。

選択肢

4年制大学だけで2,800校以上、しかも受験の時期(Early Decision、Early Action、Regular Decision )、運営者(州立、私立)、専攻(総合、リベラルアーツ、専門単科)、学士号取得までの道程(コミュニティカレッジ、編入)、さらには卒業までの年数(4年制、3年制)など、各生徒の状況に合わせてあらゆる選択肢があることに驚きました。

この広い選択肢の中から志望校を絞るのは至難の業でしたが、大学生や保護者、大学卒業後間もない知人に聞き取りをしたところ、費用(州内の公立大学を選ぶ、奨学金や学費援助の条件が良いところを選ぶ)、入学後のサポートの有無(マイノリティグループを対象にしたサポートグループがあるところを選ぶ)、距離(交通費や緊急時の対応を考慮して車で帰省できる範囲にする)など参考にすると良いとのアドバイスがありました。

この中で特に奨学金・学費援助の面では、成績をベースに提供されるMerit-basedの奨学金のほかにNeed-basedの学費援助がありますが、その中でもNeed-blind(学費支払い能力を問わずに合否を決定し、合格者には必要な金額の学費援助やキャンパス内での雇用機会などを提供する)制度は私たちにとって初めて触れる概念で新鮮でした。この制度は資金繰りが安定している私立大学に多く、州内の公立大学で部分的な奨学金しか支給されない場合より負担が軽くなる可能性があります。

一方、大学によっては選考段階で学費支払い能力を考慮するところ(Need-aware)も多くあります。今年6月に連邦最高裁判所がAffirmative Actionの大学入試への適用は違憲であるとの判断を示しましたが、このように大学で人種ベースの考慮が無くなれば、低所得者層に占める割合の多い人種の生徒が不利になる可能性もあるのではと思いました。

高校4年間かけて準備

SAT (Scholastic Assessment Test)やACT (American College Test) などの共通試験は何回でも挑戦でき、その中で一番良い点数を報告できます。そのため試験日の出来で合否が左右される一発勝負型の受験に比べて生徒の負担は少ない印象があります。さらに最近では点数の提出を廃止または任意にする大学が多くなってきました。

しかし裏を返せば、試験の結果だけでは勝負できないということになります。がむしゃらな試験勉強が役に立たないだけでなく、ボランティア活動、課外活動、仕事の経験、人生経験など生徒の生活すべてが問われるため、何をするにも高校1年生(あるいはそれ以前)から意識していなければならず、追い込みが全く利かない制度だということを痛感しました。

家族に大学進学者がいなかったり、地域の大学進学率が低かったりした場合、情報不足で不利になる生徒も出てくるはずです。これはどの人種にも起こり得る状況ですが、例えば家族で初めて大学に進学する生徒の半数以上がマイノリティグループに属するとの調査結果もあり、何かしらのサポート制度が必要ではないかと感じました。

エッセイ

全国共通の入試プラットフォームCommon App 用のエッセイと、各大学が指定するテーマに沿ったエッセイの2種類を用意する場合が多く、どの生徒も苦労している様子でした。理系のマグネット・プログラムなど特別なプログラムに入っている生徒はそのプログラム内で、そうでない生徒については英語の先生や進路相談にあたるカウンセラーがエッセイを見てくれるとのことでしたが、娘が通学していたのはメリーランド州モンゴメリー郡内最大のマンモス校だったため、学校で個人的なサポートを得るには本人が相当積極的に働きかけなければいけない状況でした。

そこでたまたま耳にしたのが、大学入試のコツを指導する家庭教師のような「カレッジ・カウンセラー」の存在でした。しかし、そのようなサービスは、アメリカの受験制度を知らない家庭であれば思いもつかず、またコストもかかるので誰でも受けられるものではありません。学校での添削を受け損なえば、アメリカに来て年数の浅い子供たちや、保護者のサポートを得られない子供たちは、効果的なエッセイを書けず力を発揮できなかったり、学費援助に結びつかず諦めざるをえなかったりといったことも起きるのではないでしょうか。

履歴書

授業のレベル(Advanced Placementクラスをいくつ受講したか)、ボランティア活動ではどのような仕事をして、それが目指す専攻とどのように関係しているか、部活などでリーダーシップを発揮できる立場にあったか、学校以外の活動は何か(アルバイトや習い事など)、資格を持っているか、英語以外に話せる語学はあるか等々、17~18年間の人生の中で起きたことをすべて書き出すように言われ、娘は相当苦労してリストを作っていました。

しかし、例えば兄弟姉妹の面倒を見るために部活や生徒会に参加できなかった生徒、交通手段がなくボランティア活動が十分にできなかった生徒などはどうなるのでしょうか。また、スポーツチームは選抜制で、体操教室やバレエ教室、会員制プールの水泳チームなど、幼少から訓練を受けていなければ入れないものがほとんどです。勉強だけでなくスポーツや音楽などの経験を盛り込んだバランスの良い履歴書にするようにと言われても、経済的事情などで習い事が不可能だった生徒には厳しい要求だと思いました。

名前

我が家で興味深かったのは、苗字はラテン、下の名前は日本名だったことです。大学入試に詳しい知人からは、ランクが上の大学を受験したいのであれば日本人であることは強調せず、ヒスパニックであることを前面に出した方が入試担当者の目に留まると言われました。実際合格をいただいた大学の中には、最近学部長になった中米系の教授が、これまで少なかった中南米からの人材(教員、学生とも)の育成に力を入れているという話を後で聞いて知ったところもありました。大学が多様性のメリットを理解して重視していれば、限られた人種に偏るリスクも減ると思いますが、そのような意識が弱い大学の場合、具体的に多様性を促す方針や方法が必要かもしれないと感じました。

娘がお世話になったメリーランド州モンゴメリー郡には、移民の子どもたち、家族で初めて進学を目指す子どもたち、経済面で厳しい環境にある子どもたちが入試に必要なサポートを受けられるプログラムがあります。そのプログラムを通して夏休み中のインターンシップを紹介してもらったり、ボランティア先につないでもらったりできます。また宿題や標準テストの準備なども手伝ってくれるようです。

一方大学側も、さまざまな環境の高校に出向いて大学フェアを開いたり、受験生の見学グループを受け入れたり、多額の学費を払わなくても学位が取れるような仕組み作り(注1)をしているところがあります。そのように両サイドの努力があれば、多様な背景を持つ子どもたちの進学の夢を叶えられる効果的な制度になるのかもしれません。

ボランティアが卒業する生徒がいる各家庭を訪れ、家の前に「卒業おめでとう」と書かれたポスターを立ててくれる

ボランティアが卒業する生徒がいる各家庭を訪れ、家の前に「卒業おめでとう」と書かれたポスターを立ててくれる

注1.例えば、メリーランド州モンゴメリー郡のコミュニティカレッジで2年勉強した後、メリーランド大学カレッジパーク校をはじめとした州立大学9校で構成するメリーランド大学シェイディグローブ校に編入することで、学費をはじめとした大学に関わる費用を大幅に削減できるシステム。


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