ボランティアで折り紙を教えて、かえって学びと喜びの経験を得た私

筆者撮影:DV犠牲者向けホームレスシェルターにて、自分で折った犬と猫の顔に喜ぶ男の子

筆者撮影:DV犠牲者向けホームレスシェルターにて、自分で折った犬と猫の顔に喜ぶ男の子

「僕の描いた犬と猫の顔見て!」と折った犬と猫の顔を仕上げてうれしそうな子。私も、「わ~、よく出来ている。耳も描いたのね。ちゃんと観察しているんだねー」と答えた。

私は今年(2021年)に入ってから、ボランティアとしてワシントンDCと近郊で折り紙を教え始めたが、この場面は、ホームレスシェルターで、Homeless Children’s PlaytimeというNPOを通じ、子どもたちに折り紙を教えた時のこと。4歳から12歳の子どもたち数名は、すべてアフリカ系アメリカ人で、通常はエネルギーに溢れていて、ひとつのことに集中させようとするのが楽ではない。

特にトラウマを受けている子どもたちは、一般的に注意散漫で辛抱強く何かに集中するのは難しいといわれているし、ましてこのシェルターは、家庭内暴力の犠牲者の親子を収容しているので、子どもたちの受けたトラウマも、並みのものではないと察する。子どもたちは果たしておとなしく折り紙をしてくれるかなと、ちょっと心配であった。しかし、まず子どもたちに、出来上がっている折り紙の犬と猫の顔を見せて、折ってみようよ!というと、皆がテーブルにつき、一生懸命折りだした。幸い若いボランティアも子どもの数と同じぐらい居て、子どもの横に付き、ちゃんと折れるように助けてくれた。そして、子どもたちは折り終わると、はしゃぎながら犬や猫の顔を自分の好きなように描き始めた。12歳の一番年長の女の子は、それに加え、鳩も折り、I love you, Momとメッセージを添えた。

すべての子どもたちに公平に折り紙を広めたい!

私は、長年途上国の教育開発に携わっていたが、2年半前退職後、紙さえあれば楽しめ、子どもの教育や発達に効果があると言われている折紙を広く普及させることに関心を持ちだした。幸いなことに、日本語と文化を広める目的でバージニア州アーリントン郡で創設された、Study Japanese in Arlington(SJA)が日本語普及に加えて折り紙を教えていることを聞き及び、ボランティアとして折り紙チームに加えていただいた。

同時に、通常は親の経済的・時間的余裕がないことなどから折り紙に触れる機会が限られてしまっているアフリカ系やヒスパニック系の子どもたち、また途上国の子どもたち向けにも折り紙を広めたいという思いが益々つのって来た。そこで、子ども向けの歌の作曲家を紹介してもらい、アフリカ系やラテン系の子どもたちや若者に受けているラップソングで折り紙紹介のビデオを創作し、それをYouTubeにアップロード。それをしたからには、このYouTubeに折り紙関連のビデオを載せ続けたいと思い、子どもたち自身が折り方を教えたり、また折り紙に関わるイベントに焦点をあてた動画を、定期的に作成しアップロードしたり始めた。

実際に折り紙を教えるのも、DCのホームレスシェルターの子どもたちに加え、アーリントンにある難民支援も行っているカソリックチャリティという団体にかけあってみた。すると、子ども向けのクラスは現在不可能だが、アフガニスタンの難民女性たちが集まる時に折り紙を教え、そのお母さんたちを通して子どもが折り紙を習うというのはどうかということで、秋からアフガン難民女性向けに折り紙を教えだした。

筆者撮影:教師向けワークショップにて(中央の緑のパンツが筆者)

筆者撮影:教師向けワークショップにて(中央の緑のパンツが筆者)

更に夏には、友人が長年活動を行っている中米エルサルバドルの農村にて、子ども向けに識字と折り紙を合わせたプログラム、およびPre-schoolと小学校の教師向けに、折り紙を学校や課外授業に取り入れる方法に関してのワークショップも開催した。このように、今年になって、折り紙に関わる活動が私も予期しなかった形で展開しだしたのである。

筆者撮影:海洋生物の多様性を学んだ後、折り紙でポスターを作製する子どもたち

筆者撮影:海洋生物の多様性を学んだ後、折り紙でポスターを作製する子どもたち

折り紙をツールに、社会的問題意識を高められたら…

そして、もう一つ予期していなかった展開が…。私は、経済格差や人種を超えて折り紙を広く普及させたいというのを、当初目的に置いていたものの、そうしているうちに、折り紙の活動やYouTubeを通して、社会の底辺にいたり疎外されがちな人々の存在を皆に知らせたり、重大な社会や環境問題などを、折り紙にからめて扱い、それがきっかけで人々が問題意識を持ったり高めたりするのも、意義があることではと感じだした。

アメリカにおける銃の脅威と犠牲者をたたえるSoul Box Project

それを特に強く思ったのが、今年の10月半ば、ワシントンDCのナショナル・モールで開催されたSoul Boxのイベント。このSoul Boxは、オレゴン州ポートランドに在住するアーティストが、アメリカの銃暴力に強い危惧を感じ、銃犠牲者の数の多さを視覚的に訴えたいと考え、手作りの折り紙ボックスを集め展示するプロジェクトを数年前に始め、全米に広げていったものである。折り紙ボックスは、銃で家族や友達を亡くした人たち、銃に反対する人々によって折られ、箱のふたの部分に、犠牲者の名前や写真、または、銃規制や安全で平和な社会を望むメッセージが記されている。これらのボックスがパネルで展示されると、銃の犠牲者がただの数でなく、個人個人であることが実感され、インパクトも強烈だ。このプロジェクト、元をたどると、創始者が、数年前まだ8歳だったお孫さんから折り紙ボックスの折り方を習い、彼女はその箱にInspiration Noteとして、「自分は世界を変えたい」と記したのが最初のルーツとか。折り紙による、素晴らしい世代を超えたストーリー。それも、お孫さんがおばあさんにアイデアと力を与えるきっかけになったとは!

モールに設けられた展示会場には、全米における過去三年間の銃の犠牲者数に相当する20万の折り紙ボックスが集められ、銃社会の悲劇に圧倒される感があった。

私は、会場に設けられたブースにて、訪問者に折り紙で箱の折り方を教えた。ブースに立ち寄り箱を折っていった人たちの中に二人の男の子がいて、去年銃で失った父親の名前を自分で折った箱に書いていった。その子たちの悲しみ、痛みを察し、言葉を失ってしまう。

このイベントを、折り紙ボックスの折り方も含めて動画にし、私のYouTubeにアップロードした結果、銃問題のように子供に話しにくいテーマも、動画を見せて子どもと話す機会を持てたとか、一個人の志でSoul Boxのプロジェクトを始め大々的に活動していったのは、本当素晴らしい、寄付させてもらったなどと知らせてくれる人たちが出てきて、私もとても嬉しかった。

このSoul Boxは、今後はDCで開催したような大々的なイベントでなく、地域レベルで、学校、NPO、コミュニティグループなどがSoul Boxの作成と展示を行うミニプロジェクトを奨励していきたいとのこと。私も、DCとその近郊の団体のいくつかに動画を添えたメッセージを送り、ミニプロジェクトを進めたい創始者の意図を伝え、私も手助けできるからと伝えた。この読者の方の中でも、Soul Boxの活動に賛同する可能性があるような団体をご存じだったら、ぜひ、Soul BoxのWebsiteおよび、私のYouTubeの動画をシェアしていただければ、幸いである。私の折り紙YouTubeチャンネルにはOrigami Rap Songも含め、すでに10数個の動画がアップロードされている。

ボランティア活動から、反対に豊かさをもらった

ボランティアとは、自分のお金や時間をつぎ込む奉仕であろうか?私にとっては、今年一年の折り紙ボランティアは、新しい発見、学び、そして子どもたちや人々と楽しい出会いや交流があって、自分が与えるものよりもらうことの方が絶対的に多かった気がする。

ホームレスの子どもたちは粗雑でないかと勝手な先入観を持っていたのが、子どもたちが観察力を使って動物の顔を描いたり、折り紙のハートを、教えた通りとんがっている角を裏にちょっと折りこむのでなく、ハートの形に近づくように、傾斜をつけて折っていたりと。それを見て、自分の先入観を恥じた。

今年夏にアメリカに移住して来たアフガニスタンの難民女性たちは、折り紙のハートを貼った紙に、伝統的な花と葉の形を手描きし、きれいなアートに変身させ、望郷のメッセージも添えて、私に強く感動を与えた。また、SJAの理事やボランティアの方たちと知り合え、アイデアをもらったり助けてもらったりしたのも、うれしかった。ボランティアを通じて、悲惨な社会の一面を垣間見て絶望感を感じることもしょっちゅうであったが、私がもらったものは、かけがいのない大きいものだったと感じるし、今後もボランティアはどんな形でも続けたいと思っている。

今年の夏にアメリカに移ったアフガン難民女性による折り紙作品と、望郷のメッセージ

今年の夏にアメリカに移住したアフガン難民女性による折り紙作品と、望郷のメッセージ


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