スミソニアン自然史博物館でボランティア
「化石ホール」オープン!
2019年6月8日土曜日、ワシントンDCにあるスミソニアン博物館のひとつである国立自然史博物館の化石ホール(Fossil Hall)が5年間の大改装を経て、オープンした。私たちボランティアは初日限定のお揃いTシャツ(サイズXL)を着て、ピカピカのホールで来館者の入場を待っていた。博物館入り口前ではテープカットのセレモニーが始まった様子。外で開館前プログラムの恐竜ハット作りボランティアをしている仲間から、「凄い人出だよ」とテキストが送られてくる。初日混雑を予想して、ホール内のカートアクティビティは、ボランティア二人で担当だ。
私は同期ボランティアの一人と「Marine Revolution」のカートを準備した。何度も練習したが、緊張する。アクティビティガイドに何度も目を通し、ホール内の展示配置、トイレの場所を確認する。さてセレモニーが終わり、続々と来館者が入場し始めた。ホール内はあっという間に一杯だ。アメリカ国内は既に夏休みに入っている学校も多いので、遠くから来た家族連れも多く、子供たちが次々とカートに集まってくる。前のグループが終わるのも待たずに横から手を出してくる子、アクティビティ用の貝殻を持っていってしまう子もいて、物品管理も大変だ。二人いて良かった、とつくづく思った。
ボランティアは午前と午後の2シフトで活動している。私は午前の担当時間を終えて、カートを後半のボランティアに引き渡し、控え室に戻った。差し入れのスナックをつまんで外に出ると、炎天下に入館待ちの長蛇の列である。ところが、気怠そうにしている人は一人もおらず、皆楽しそうにお喋りをしながら待っている。冷房の効いた館内で快適に過ごしていたことを申し訳なく思いながらも、この超人気博物館でボランティアをすることを改めて誇りに思った。
スミソニアンでボランティア
「…してる友達がいるよ」、渡米前に友人からこんな言葉を聞いた。「英語がすごくできるって訳じゃないけど、大丈夫みたい」それ、そこ重要!私にもできるかも!前回のニューヨーク滞在は、英会話クラスと日本人PTAの活動で終わった感じで、慣れてきた頃には帰国となった。駐在員の同行家族という立場でできることは限られている。しかも滞在は数年である。今回はもっと現地の人との交流を持ちたい、何かボランティア活動をしようと考えていたところだった。よし、スミソニアンでボランティアしよう!夢は膨らむ。
応募、そしてトレーニング
国立自然史博物館での「DeepTimeボランティア」募集をウェブサイトで見つけたのは、夫の二度目の海外赴任でワシントンDC地区に引越した2018年の年末だった。ボランティアの条件は「18歳以上、事前トレーニングに50%以上出席すること、少なくとも1年間、96時間(月あたり8時間)の活動を約束すること」だった。映画「ナイトミュージアム2」の舞台にもなった博物館である。これは応募するしかない!と具体的な仕事内容もよく分からないまま応募を決めた。実はこの時点では「DeepTime(地質時代;地質学的時間スケールで地球誕生から有史時代以前を指す)」という言葉さえ知らなかった。
2019年、年明け早々に英会話の先生に相談にのってもらい、レジュメを作成。NYでお世話になったESLの先生にも連絡をとり、先生二人に保証人になってもらった。ウェブサイトから応募して数日後、担当者から質問リストと面接日程についてのメールがきた。質問内容は、ボランティアとして何をやりたいか、活用できるスキルは何か、ボランティア活動において重要と考える要素は何か、などなど。この質問事項を参考に英会話クラスで模擬面接をしてもらった。
本番の面接は政府閉鎖中で博物館が閉館していたため、近くのスタバで行われた。緊張していて何を話したかよく覚えていない。確か館内地図の説明があり、応募の動機や困るような状況における対応などを質問されたと思う。その日のうちに採用のメールが届き、早速先生たちに報告した。
1月末には政府閉鎖が解除され、2月始めから現地でのトレーニングが始まった。トレーニング初回は「Breaking Ice」、それぞれがボランティアするにあたっての想いを話した。この時の「皆が笑顔になれる博物館だから、ここでのボランティアを選んだ」というある一人の言葉が、この後私の活動の支えとなった。その後は古生物学関係の講義に加え、ボランティアとしての心構え、目の不自由な訪問者の誘導の仕方、挑戦的な質問への対応、カートアクティビティ実技体験など、平日2時間、土曜4時間で合計18回あった。そして、5月中旬にトレーニング規定回数を満たして、無事スタッフバッジを受け取った。
ボランティアの仕事
化石ホール内でのボランティアの仕事は大きく分けて2タイプある。一つは訪問者に話しかけて、展示物についての質問を受けたり、説明をしたりする。もう一つはカートアクティビティを通して、訪問者に古生物学者、科学者の擬似体験をしてもらうことだ。どちらも訪問者の興味を引き出すことが最大の目的である。私は専ら、マニュアルが用意されているカートアクティビティを担当した。
1日に2シフトで各シフトは4時間。ボランティアは1シフトに5名まで枠があり、あらかじめ自分の都合の良いシフトにサインアップする。イベント時には増員して募集がある。ボランティアが一人だったこともあるし、一人もいない日もある。なぜか水曜日の午前枠はいつもすぐに埋まっていた。
6月のオープンから夏休みの終わる8月下旬頃までは、多くの家族連れ、学生グループ、海外からも多くの観光客が訪れ、大忙しだった。ある日、ポケモンワールドカップ日本代表という中学生の家族連れが来た。「日本語話せます」のバッジを付けていたのだが、父親は子供たちは中学生だから英語で説明してくれと言う。英語で行なったところ、子供たちはほとんど理解できていない様子で「主語、述語のあるきちんとした文章でないと分からないみたいだ」と言われてしまった。ま、仕方ないか…。
9月下旬頃になると人出もすっかり落ち着いてきた。4時間のシフト中ずっとカートについていたら、ある日先輩ボランティアに「途中で片付けて休憩するなり、ホール内を歩き回るなりしなさい」とアドバイスを受けた。「さもないと、いつあなたはホールの展示物について学ぶの?」と。なるほど、周りを見ると他のボランティアはシフト時間内でもラウンジに行って休憩したり、お昼を食べたりしていた。そこで早めにカートを片付けてホール内を見て回ることにした。
別途に募集やトレーニングがあるのだが、ボランティア仲間の中にはハイライトツアーガイドをしたり、別のホールでの仕事をしている人も多い。将来的には他のボランティアにも応募したい、と思っていた。
パンデミック到来〜現在
ところが、今年に入り徐々に新型コロナウィルス感染拡大のニュースが浮上してきた。カートアクティビティはできなくなるな、と心配し始めたのも束の間、パンデミック宣言によりボランティア活動休止の連絡が入る。そして2020年3月中旬には、博物館自体が閉館となってしまう。私のボランティア活動が10カ月目に入った頃だった。
閉館後から現在に至るまで、ボランティアニュースレターが定期的に送られてきている。5月頃からは専門家による講義が開催され、またボランティア・ハングアウトという情報交換の場が、毎日オンラインで開かれている。ボランティアによるヴァーチャルイベントも行われた。
先日、日本にいる友人相手に、博物館のウェブサイトを利用してヴァーチャルツアーを行った。ホールの展示物を復習し、カートアクティビティ平面版を作成して準備した。約1時間のツアーとなった。友人にはとても喜んでもらえたし、私自身久しぶりの博物館をとても楽しむことができた。
この原稿を書いている10月中旬現在、自然史博物館開館のめどは立っておらず、開館してもボランティアはすぐには戻れない。米国滞在のタイムリミットがある私としては、帰国までに博物館へ戻れることをただただ祈っている。
大分県出身。夫の駐在に伴い、2010年10月より3年半ニューヨーク市郊外に居住。2018年8月よりメリーランド州のBethesda在住。