‘Unprecedented’ 前例のない新型コロナウイルスに対する地元の変化

はじめに

私は、米ノースカロライナ州(以下NCと略)への引っ越しを機会に、地元に貢献できるボランティアを始めようと思い、公的高齢者医療保険であるメディケアに関する相談員(Senior Health Insurance Information ProgramSHIIPカウンセラー)の州の認定を取得。今年の1月から地元のシニア・センターで相談を受けていました。相談内容は多岐にわたり、毎回の相談が自分の勉強にもなり、遣り甲斐を感じていました。この頃から、中国内の新型コロナウイルス感染拡大が報じられるようになってきました(以下、コロナウイルスと略)。

米ノースカロライナ州オレンジ郡のシニア・センター

米ノースカロライナ州オレンジ郡のシニア・センター

コロナウイルスの認識度はまだまだ

1月下旬に、中国の武漢市が封鎖され、各国がチャーター機を飛ばして自国民の帰国を促している光景と潜伏期間がおよそ2週間というコロナウイルスに不安を感じました。これは、あくまでも私見ですが、普通の風邪なら、感染して早ければ1日で発熱、咳など症状が出るので、仕事や学校を休むなど、本人も外出を控えます。一方で、コロナウイルスのように潜伏期間が長くなると発熱などの症状が遅れて出てくるので、本人は感染に気が付かず普通に生活して、周囲にウイルスを感染させる可能性もあるのではないかと思いました。

米国は2月2日から発症国からの入国拒否(永住権、米国籍を除く)を始め、各国も徐々に同じような処置をとりました。この時ふと、近年、グローバル化が進み、国際ビジネスマンに限らず、学生、一般観光客が世界中を旅行するようになり、このような状態で感染拡大はどのようになるのかと、また不安になりました。

この時点では、NCに感染者が出ていないこともあり、地元の人たちのコロナウイルスの認識は低かったようです。ただ、この頃から地元の大手スーパーのマスクの棚は、いつも品切れ状態でした。お店スタッフは、不思議そうな顔をして、「入荷してもすぐに売り切れになるのよ」と言っていました。

地元のシニアセンター

地元のシニアセンターは、各種プログラムが充実しており、中高年の住民たちが利用していました。住民のイベント会場にもなっているので、1月下旬には、春節祭が開催されました。メディケア*の相談に来られる方々は、65歳前後から85歳ぐらいまでの方が多ったです。相談は予約制であり、予約はいつも詰まっており、この状態が2月末まで続きました。

*メディケア:公的高齢者医療保険であり、65歳以上の高齢者、あるいは65歳未満の末期障害(ESRD)障害年金(SSDI)受給者が対象。これに対して、メディケイドは公的低所得者医療保険。

徐々に国内のコロナウイルス感染者が増加

アメリカ国内のコロナウイルス感染者数は、2月に入り徐々に増えてきました。2月は感染者が少なかったのでCDCのグラフではわかりづらいですが、グラフの下の一日ごとの感染者数を見ると、2月下旬には毎日15人前後の感染者が出ていることがわかります。

米疾病管理予防センター(CDC)がまとめた全米の感染者数推移(棒グラフは合計数、各日の数字はその日新たに確認された感染者数を示す。2020年4月23日現在)

米疾病管理予防センター(CDC)がまとめた全米の感染者数推移(棒グラフは合計数、各日の数字はその日新たに確認された感染者数を示す。2020年4月23日現在)

2月25日には、カリフォルニア州サンフランシスコ市長が、コロナウイルス感染拡大を抑えるために緊急事態宣言を出しました。この宣言を知った時、NCにコロナウイルス感染者が出るのも時間の問題かもしれないと感じました。

コロナウイルス検査は保険適応?検体送付先は?

メディケア相談のクライアントや自分にコロナウイルス検査が必要になったら、医療保険はカバーしてくれるのかどうか気になって、まずは自分の保険会社に電話で問い合わせてみました。2月26日の話です。保険会社のカスタマーサービス担当者に、英語で 「コロナウイルス検査の保険適応に関する問い合わせは、あなたが初めてですよ。確認しますので、しばらくお待ちください」 と言われ、5分ほど待った後、次のような説明を受けました。

「コロナウイルス検査は、治療にあたり、医療上必要(Medical necessity)であれば、保険適応を認めます。そして、医療上必要の条件として、被保険者が過去14日の間に感染地から戻ってきた、あるいは、コロナウイルス感染者と診断された人に接触した場合」 ということでした。

私はこの回答に対して、「例えばショッピング・モールに行くと、不特定多数の人に接触するので、これらの全ての人に感染地に行ったかどうか、あるいはコロナウイルスに感染しているかについて、確認できないと思いますよ。だから、自分が知らない間にコロナウイルスに感染して、疑わしい症状が出た際、コロナウイル検査を受けたくても、現行の条件では、検査が保険適応にならないのでは?」 と言いました。これには、先方も返答に困ったようですが、最終的には、「医療上必要でなければ、あなた(私のこと)の自己負担になります」とのことでした。

次に、仮にコロナウイルス検査が医療上必要の条件を満たした場合、検査検体の採取法と送り先を聞いてみました。この時点では、CDC(アメリカ疾病管理予防センター)が検査受託先であり、検査は無料と聞いているが、CDCへの検体送付方法と送付先住所などの詳細はわからないということでした。

JAMA (米国医師会雑誌)に掲載された記事は、CDCによる初期のPCR検査キットは、陰性コントロールに問題があり、結果判定に支障が出ていたと報じています。FDAは2月29日、州の衛生検査所も含めて臨床検査所のコロナウイルス検査の規制を緩和し、さらに3月3日には、医師がコロナウイルス検査のオーダーを出すことで検査に保険が適応されるようになりました。この頃から全米各地でコロナウイルス感染者(陽性者数)が増えてきたのは検査の規制緩和により検査体制が確立されたことと、保険適用条件が変わったことが大きく貢献しているのではないでしょうか。

NCに初のコロナウイルス感染者で一転する

ついに3月3日、NCに最初のコロナウイルス感染者が出ました。この感染者は、コロナウイルス感染で9名の死者を出したワシントン州の介護施設を訪問して戻ってきた人であることが判明しました。この日を境にして、コロナウイルスに対する地元市民の認識は高まりました。これを受けてシニアセンターでは、メディケア相談のアポイントをキャンセルする高齢者が増え、相談件数は激減しました。

3月10日、NCのクーパー州知事は緊急事態宣言を出しました。これを受けて、シニアセンターは一時休館、公立学校も一時休校となりました。この頃から、急にマスクと手袋を付けて買い物をするアメリカ人を見かけるようになりました。そして、翌日3月11日には、WHOがコロナウイルスのパンデミックを宣言しました。

3月下旬の地元の様子

NC州政府は、3月30日から4月29日の1か月間の自宅待機令を発令しました。地元のコロナウイルスへの関心は一気に高まり、連邦政府のコロナウイルスガイドラインである社会的距離(コロナウイル感染症拡大防止の1つとして人と人との距離をおよそ6フィート(2m)ぐらい離して接する)のが常識になってきました。

地元のファーマーズマーケットで客が距離を取って並んでいる様子

地元のファーマーズマーケットで客が距離を取って並んでいる様子

小児科クリニックのドアの前に置かれた看板。英語とスペイン語の両方で 「発熱、咳のある患者さんは、クリニック内に入らないでください」 と書かれています

小児科クリニックのドアの前に置かれた看板。英語とスペイン語の両方で 「発熱、咳のある患者さんは、クリニック内に入らないでください」 と書かれています

これまで、私の周囲では特定の人種をターゲットにした嫌がらせは起こっていません。4月に入り州内のコロナウイルス感染者が急速に増えだして、全ての人と社会的距離の確保が常識になったことが上手く働いているように思えます。

手作りマスクの呼びかけが始まる

現在、地元の医療機関は医療用ガウン、マスク不足のために手作り布マスク(ウイルス防御の保証はない)の寄付を呼び掛けています。かつて、医療機関は、手袋と注射針を除けば、医療用ガウン、手術帽、手術用マスクなどの医療用品は、洗濯後に滅菌処理して再利用していました。近年、医療業界でもグローバル化が進み、効率化とコスト削減のために使い捨て医療用ガウンのように、使い捨ての医療用品に切り替わっています。さらに、国内生産が減り、輸入に頼っているのが現状です。この緊急事態で、米国内に仮設製造工場を設置しても、国内生産するにも原料調達と原材料にも限りがあります。

これは、医療に限ったことでなく、身の回りにも影響が出てきています。例えば食卓に並ぶ野菜や果物は、輸入品だったり、国内産の場合、農園で働く人たちは、移民労働力に頼っているのが現状です。NCの農園で働く移民たちもコロナウイルス感染のリスクに晒されていると地元の新聞は報じていました。

まさに、ナノサイズのコロナウイルスが、 効率化、消費、コストを重視したグローバル化を直撃するという前例のない事態が起こっています。グローバル化により、世界中の人がその恩恵を受けていたのだろうか?地球温暖化はグローバル化の産物であったのではなかろうか?今こそ、生活の原点を考える時期なのかもしれません。そして、私たちの世代は、この経験と教訓を後世に伝えていかなければならないと思います。

最後に

3月を転機として、この1か月で地元のコロナウイルスへの対応は様変わりしました。外出時にはマスクと手袋が常識になりつつあります。マスクと手袋不足からバンダナやタオルをマスク代わり、作業用手袋を付けるアメリカ人もいます。この原稿がウェブマガジンに掲載される頃は、また事態が変わっているかもしれません。

現在急がれるのは、コロナウイルスのワクチンと治療薬の開発です ワクチンと言えは、今からおよそ70年前にニューヨーク生まれのジョナス・ソーク博士がポリオ・ワクチンを開発しました。ソーク博士は、個人的な利益を求めず 「特許は存在しません。太陽に特許は存在しますか?」 という名言を残しています。今一度ソーク博士を思い出して、一日でも早くコロナウイルス・ワクチンと治療薬の開発が進み、世界中の人に行き渡ることを祈るばかりです。

最後に、この場をお借りして、今回コロナウイルス特集の企画と寄稿の機会を下さったWJWNの編集部の皆様とコロナウイルスの治療に従事されている医療従事者、関係者の皆様に感謝と御礼を申し上げます。

参考文献:

-Diagnostic Testing for the Novel Corona Virus: Sharfstein, Becker and Mello: JAMA: March 9, 2020

-Pence: Coronavirus tests won’t come with ‘surprise billing’: The New and Observer: March 11, 2020

-Testing System Failed, U.S. Expert Says: Wall Street Journal: March 13, 2020

-Coronavirus poses a threat to a major NC food producer: the immigrant farmworker: The Durham Herald Sun: March 31, 2020

お断り:この記事に記されている情報は、できるだけ正確なものにする努力をしていますが、一切を保証するものではありません。

 

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