関本のりえ著「世界で損ばかりしている日本人」

「世界で損ばかりしている日本人」

「世界で損ばかりしている日本人」

本書が出版されたのは、今から8年前の2011年。著者は、プロローグで3.11東日本大震災のことをマニラで知り、1995年に駐在先パリで知らされた神戸地震を思い起こしながら、各国の報道の仕方の違いを比較した。日本人にとって、これらの大地震の日にどこにいたのかは、アメリカ人にとってのJFKの暗殺、アポロの月着陸、9.11に匹敵する出来事であろう。筆者も3.11はワシントン、神戸地震はニューヨークで知り、CNNやBBC などの報道とNHK報道の違い、そしてアメリカ人、世界銀行、国連の各国の職員たちの反応を見て、やっぱり自分は日本人なんだなとあらためて自覚したのを覚えている。

第一章では、1980年代後半から関本さんのカナダの大学院留学から、ILO、FAO、 OECD、 アジア開発銀行、世界銀行と国際機関を渡り歩いてきたキャリア軌跡が、彼女独特の日本人の観点から面白く語られている。当時は帰国子女ではない日本人で国際機関に正規職員として働いている人(日本の政府や企業からの派遣ではなく)は珍しかったと思う。

この1980年代後半から90年代前半は日本経済がバブルのピークで、アメリカでは貿易赤字が大問題になり、日本企業は海外の資産を買いまくり、個人レベルでは海外旅行が大流行で、ブランド品を買いあさっていた時代。外国人は日本語を勉強したがり、アメリカでは公立学校でも日本語を教えていた。今の中国ブームを彷彿とさせるジャパンブームだった。日本の海外援助金額も大幅に増資され、その出資額にのっとって国際機関への出資額もアメリカについで第2位になっていた。

第二章では、そんな日本ブームを背景に、国際機関という特殊な組織における日本と日本人の存在感について分析している。「日本人としてしっかり通用する人は国際機関では評価されない。日本で変な人と思われる人、厚かましい、アグレッシブな人が評価され成功している。」というのは、関本さんをはじめ、日本人らしさを海外でも保持している人の見解のようだ。これは、海外でも国内でも外資系企業に働く人にも当てはまる見解のような気がする。また、日本人は特殊で、分かりにくい人々と思われている、という印象はまだあるようだ。1970年代の日本高度成長期には、モーレツサラリーマン、エコノミックアニマル、眼鏡にカメラを首からかけたおのぼり観光客というのが日本人のイメージだった頃に比べたらましなのかもしれないが。

第四章に入ると、さらに広く視野を広げて、世界の中の日本という観点で、日本(人)が、少数民族・マイノリティであること、有色人種であること、敗戦国(民)であること、差別される側であること、そしておせっかい文化であることを思い起こさせてくれる。

第五章では、日本人と英語、日本人の特性と英語力について、そしてどうしたら日本人が英語をうまく使えるようになるかのアドバイスを提供してくれる。

最終章では、関本さんならではの楽観的な「損をしない日本人」になるための6つの秘訣を教えてくれる。日本人として、これからの世界で、どういう行動パターンを変えるべきか、今後海外で仕事をしたい日本人には必読の一冊であろう。

8年前の日本は、リーマンショックからやっと立ち直りの見通しがつくかもしれないという矢先に3.11が起き、日本経済はさらに低迷し、ネガティブ利率の時代に突入。今年2019年には、日本の国連出資額は、中国に抜かれて3位になっている。言語面でみてみると、世界で英語の次に話されている言語はスペイン語ではなく中国語になった。アメリカの公立学校では日本語、ドイツ語を排除し、中国語、アラビア語が選択肢になっている。日本でも、いくつかの企業が英語を社用語にしたりするものの、若者たちの中には、外国語、英語さえも勉強したくない、海外留学どころか、海外旅行にも興味がない人が増えているという。

近年の日本の世界の中での位置付けを反映してか、国際機関での日本人採用のプレッシャーも以前ほど強く感じられなくなってきている。これからはAIなどの技術革命で労働市場ももっと推測できないようになり、今の職業の40%は将来なくなってしまう、そして、将来の職業の20%はいままだ存在しない。さらに、日本では、気候変動(2019年台風15、19号)、火山噴火・地震などの不安要素も考慮しなければならない。

筆者としては、あまり悲観的にはなりたくないが、個人レベルの6つの秘訣に加えて、今後の世界動向を踏まえた、もっと抜本的な日本再生計画と、それに沿った考え方のシフトが必要なのでは、と思う。

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