コロナ禍でコネチカットの魅力を再発見

コロナ禍で “positive” という言葉はすっかりネガティブな連想を伴うようになったが、ポジティブな面もある。ZOOMで遠く離れた旧友とのバーチャル同窓会も楽しいし、どこへも旅行せず、自分が住んでいる町をじっくり楽しめたのはコロナ禍のポジティブな副産物であったと思う。もちろん、住む町によってはニューヨーク市のように逆の場合もあるが、私が住むコネチカット州ではずっと新型コロナウィルスの感染率が低かったため、レストランやジムを始め、いろんな施設が近隣のニューヨークやニュージャージー州よりずっと早く再開した。そのため、ニューヨーク州境に近い、ここコネチカット州スタンフォード市のレストランへはニューヨーカーが押しかけた。普段はそんなに予約を入れるのに苦労しないレストランでも、この夏は予約を入れるのが大変だった。また海辺のホテルも宿泊料金が高騰し、以前なら週末一泊か二泊の遠出が気軽にできたのに、この夏はそうはいかなかった。また特に家族連れのニューヨーカーが一軒家やアパートを夏の間レンタルし、中にはそのままコネチカット州に引っ越してしまうケースも相次いだ。「何年も売れなかった物件でさえ飛ぶように売れている」と不動産業者の友人はみんな、左団扇だ。

コネチカットはあまり知られていないが、有名な建築がある。車でなければ不便な所もあるが、コロナ禍においては車の小旅行が好まれるのでいくつかご紹介したい。

グラスハウス The Glass House

New Canaan市にあるグラスハウス

New Canaan市にあるグラスハウス

建築家のPhilip JohnsonがNew Canaan市に建てたもので、ガラスとスチールを素材に、ミニマリズム、幾何学パターン、透明感と陰影のコントラストなどを特徴としている。1949年に完成し、Andy Warhol、Merce CunninghamやBarbara Waltersを始め、各界の著名人がここを訪れた。敷地内の木々や池が見せる四季折々の表情をガラス越しに眺めると、屋外で見るのとはまた違った趣がある。ただ、ここを訪れた時、感じたのは、こうやって自然とモダニズムの調和の中で暮らすのは楽しいだろうし、別にご近所さんがすぐ隣にいるわけでもないのでプライバシーも心配することはないが、まるでショールームに住んでいるようで、自分なら本当に落ちつけるだろうかということである。

実際、Philip Johnsonも何かに集中する時は壁がある部屋で作業をしたそうだ。ガラス張りの空間で、壁のありがたみを実感した。Philip JohnsonはMOMA (Museum of Modern Art; ニューヨーク市)の建築部門で働いていたこともあるが、のちにMOMAのスカルプチャーガーデンを設計した。所謂、「金持ちのぼんぼん」で、建築を勉強中に、家のモデルを作成するという宿題が出て、モデルを作る代わりに本物の家を一軒、建ててしまったという逸話がある。Johnsonの先祖にはニューヨーク市がまだオランダ統治のニューアムステルダム時代、ニューヨークの一番最初の地図を作製したという人物がいる。

Philip Johnsonはここで2005年に98才で息を引き取った。長年連れ添った、芸術評論家のDavid Whitney氏も半年後、66歳の若さでJohnsonのあとを追うように亡くなった。

グラスハウスは4月から12月に開園しており、完全予約制で、ガイド付きツアーがある。 New Canaanはこのグラスハウスだけでなく、歴史的な豪邸がひしめいているので、あたりを車で散策するだけでもおもしろい。

グレースファームズ Grace Farms

ここはコロナ禍で2020年12月現在、まだ閉園したままだが、日本人建築家グループSANAAが手掛けた複合施設で、一日も早い再開を念じながら紹介しておく。前述のグラスハウスと同じNew Canaan市に位置し、広大な敷地内にはコンサートホール、カフェテリア、ライブラリー、ティーハウス、屋内バスケットボール場、チャペル、ミーティングルームなどがある。その各施設をリバー(川)と呼ばれる屋根が流れる川のような形で結び、日本建築の「軒(のき)」の役割を果たしている。「ファームズ」が名前に含まれているものの、家畜はいない。ティーハウスにはティーソムリエがいて、それぞれの茶葉に適した温度と器でお茶を入れてくれる。モダンなデザインと禅の融合を感じられる場所である。

グレースファームズ外観


グレースファームズ外観

コンサートホールにはQuiet Roomと呼ばれる防音効果をもつ小部屋が設置されており、外からの音は聞こえ、中の音は外には聞こえないようになっている。乳幼児連れで、途中で泣きだされても気兼ねなくコンサートを楽しめる。カフェテリアの壁面にはミラーキューブを使った、Teresita Fernandez作のウォールアートがあり、屋外の自然の色が溶け込む。

グレースファームズ カフェテリア内Teresita Fernandezのウォールアート

グレースファームズ カフェテリア内Teresita Fernandezのウォールアート

カフェテリア全体は微妙な曲線を描くガラスで包まれ、自然との一体感を醸し出し、まるで屋内ピクニックのようだ。ここを創設した団体は自然、芸術、コミュニティ、正義、信仰という5つのイニシアチブを掲げ、女性の権利、人種差別やセックストラフィッキング撲滅などの運動を行っている。

フィッシュチャーチ Fish Church

First Presbyterian Church内部

First Presbyterian Church内部

正式名はFirst Presbyterian Churchだが、上空から見た形が魚の形なので、フィッシュチャーチという愛称で呼ばれている。Stamford市にあり、普通の教会として機能しているが、建築を見学したい人は予め電話すれば入館できる日時を教えてくれる。Wallace K. Harrisonによる建築で、魚は初期キリスト教のシンボルであるが、それは意識せずにデザインしたという。様々な人々が見学に来るのは中のステンドグラスで、2万個を超えるパーツから成っており、一見、抽象的に見えるデザインも、よく見るとステンドグラス本来の機能である、バイブル(聖書)のイメージ化の役割を果たしている。クリスマス時期には管楽器オーケストラとパイプオルガンの組み合わせでクリスマスコンサートが開かれ、宗教の壁を越えてあらゆる人たちが集う。

マーク・トウェイン邸 The Mark Twain House

トムソーヤなどのイメージから、マーク・トウェインはミズーリ川周辺のみすぼらしい掘立小屋で執筆していたイメージを持っていた私はこの11,500平方フィート、25部屋もある豪邸を訪ねて驚いた。妻の実家が裕福であったため、この豪邸を建てることができたので、いわゆる「逆タマ」である。Hartford市にある、このビクトリア様式の豪邸は、内装を一部、ティファニー社が手掛け、細部に至るまで設えがすばらしい。サイトでバーチャルツアーが楽しめる。

邸宅の隣にあるミュージアムではマーク・トウェインの波乱万丈の人生の軌跡を辿ることができる。そしてさらに隣には「アンクルトムの小屋」のHarriet Beecher Stowe邸もあり、こちらもガイド付きツアーがある。

ハモナセット・ステート・パーク Hammonasset State Park

コロナには影響されない場所として、Madison市に位置するHammonasset State Parkがある。広大なビーチにシャワーや更衣室などの施設もあり、キャンピングカーやテントでキャンプも楽しめる。

Hammonasset State Parkのビーチ

Hammonasset State Parkのビーチ

Yale大学キャンパス Yale University

Yale大学図書館

Yale大学図書館

またNew Haven市のYale大学は歴史が古く、ハリーポッターの世界に迷い込んだようで、キャンパスを歩くだけでも楽しい。いかにもカレッジタウンらしいカフェやレストランも点在している。キャンパス内には大学のミュージアムがあり、入場は無料。さすが寄付金が多い大学だけに、これを大学が所有しているのかとびっくりするようなアーティストの作品が並んでいて見ごたえがある。

Yale大学キャンパス

Yale大学キャンパス

20年間のコネチカットでの暮らしにおいて私が知っているだけでも、ここには書ききれないぐらいなので、きっとどの州でも、どの町でも、もう一度、見直すべき魅力的な場所がたくさんあるのだろう。コロナ禍は少しスローダウンして、自分の町を、自分の家族を、自分の家を、そして自分の内面を見つめ直すという、リセット期間なのかもしれない。


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