二都結ぶ健康体操「自彊術」

ワシントン生活スタート

2005年春。数カ月先に赴任した夫の後を追って到着したワシントンは、満開の桜に彩られていた。東京で大きな手術をしてからまだ半年。初めての外国暮らしの緊張と期待、何よりも自分自身の健康に対する大きな不安に押しつぶされそうになっていた私の心を癒してくれる、美しい街並みが心に沁みたことを覚えている。

しばらくは、キーブリッジ近くのポトマック川のほとりにあるタウンハウスに引きこもる毎日だった。ある秋の日、夫の同僚の奥さんやそのお友達がWTWC(ワシントン東京ウイメンズクラブ)の活動に誘ってくださった。新年度開始のランチョンで、たまたま隣に座った方が、当時ジャパニーズ・アメリカン・ケアファンド(日本人コミュニティーのための非営利団体)の副会長をしておられたジェンキンス章代さん。「東京では何をしていたの?」と問われ、日本で一番古い健康体操である「自彊術」について話をしたところ、会長(当時)の奥田輝子さん(2020年7月ご逝去)が「文化クラスで、教えてくださらないかしら」と真剣な眼差しで誘ってくださった。

ケアファンド初期の体操教室 皆、熱心に体操していた

ケアファンド初期の体操教室 皆、熱心に体操していた

その年の11月、バージニア州アナンデールにあるケアファンドの図書室に15人近くの人が集まって下さった。体験後にほとんどの方が「随分気持ちよかったので、継続して習いたい」とおっしゃり、週一回のクラスが立ち上がった。

クラスのメンバーは、全員が日本人。ご主人がアメリカ人という方が多く、長年にわたりワシントンに住んでいる方がほとんどだった。最高年齢者はなんと93歳!とてもお洒落で上品な方で、娘さんのバッシャム裕子さんとご一緒に、お亡くなりになる100歳まで通われた。体操後のランチでは、ワシントン情報始め、時には皆さんのこれまでの人生の一端をうかがうこともあり、私には貴重なひと時だった。

私と同じように駐在でワシントンに住んでいらっしゃる方たちとも出会い、その中からも「是非習いたい」とそれぞれのご自宅に皆で集まって下さる方たちでクラスができた。体操後には、美味しいスイーツやこだわりのお茶をいただきながらのおしゃべり。時には、庭に来る鳥や動物たちを目にして歓声をあげた。

メンバーの自宅で開いた教室では体操の後のティータイムも楽しみの一つだった

メンバーの自宅で開いた教室では体操の後のティータイムも楽しみの一つだった

こんな風にワシントンでも週に二度、一緒に体操ができる仲間ができたことの幸せを感じながら、あっという間に3年が過ぎていった。

再度の渡米

2008年1月に私たちが帰国した後も、ワシントンの仲間たちは毎週集まり、自彊術を続けてくれた。東京では、ワシントンから私より先に帰国していた人たちから「また一緒に体操したい」と声がかかり、私の方もワシントン時代の仲間で集まりたいという気持ちが一気に高まり、2クラスを開設した。ワシントンに住む仲間も一時帰国の際には必ず、これらのクラスに参加してくれ、一緒に体操すれば、懐かしい気持ちでいっぱいになった。

帰国後わずか3年後、思いもよらず、私たちは再びワシントンに駐在することになった。到着から数日たった3月11日早朝、日本が大変なことに!滞在中のホテルのカフェで、夫とテレビの映像を見て、驚愕した。そこには、見たこともない巨大な津波が、東北地方沿岸の町を飲み込んでいる光景が映し出されていた。事の重大さを知り、胸が破裂しそうにどきどきした。10年以上が過ぎた今でも忘れられない。二度目の駐在生活は、東日本大震災に襲われた母国に思いを寄せる活動から始まった。大使館主催の震災への支援活動に参加した。思いついたことをどんどん行動にうつしていくWTWCの仲間らとは夢中で支援活動のあり方を考えた。

一方、自彊術の友たちは、「奇跡のカムバック!」と私を迎えてくれた。今回は渡米前から、東京に本部がある「(公社)自彊術普及会」が海外のクラス開設をバックアップして下さり、2011年11月、前回の駐在時につくった二つのグループを正式に普及会傘下のクラスとして開設した。自彊術の良さを実感し、周りに伝えて下さる方たちが増えていったのだろう。次第に入会者が増え、クラスは6つになった。

夫の帰任時期が迫っていた2013年1月、私たちが帰国した後のワシントンでの自彊術体制を確認するため、普及会専務理事の堤恭子東京北支部長が東京から訪問された。仲間とともに準備した合同セミナーのイベントを開催し、最終日のリーダー・ミーティングでは、私の帰国後4月からの体制について打ち合わせをした。

ケアファンド図書館での療法の指導(2018年9月)

ケアファンド図書館での療法の指導(2018年9月)

年に一度は東京から講師がワシントンを訪れ、体操を指導する一方、指導者を目指すメンバーは日本での研修を受けることが確認され、ワシントンでの自彊術体操の未来基盤がしっかりと出来上がったのである。

この年の10月、ワシントンの代表として岩瀬功子さん、藤生圭子さんの2人が、初めて日本での大きな研修会二つに参加され、指導者への道がスタートした。ワシントンで知り合った人たちが広い太平洋を越えて研修会に参加する日が来るなんて、想像もしなかったことだった。翌年は支部長、講師の先生との3人でワシントンを訪問し、勉強会を行った。お互いの行き来が恒例行事となり、東京とワシントンという二つの都に住む人たちが、自彊術体操でしっかりと結びつきを深めていった。

2015年4月の熱川研修会には、ワシントンの生徒さんと一緒に参加するという夢が叶い、感無量の思い出深い研修となった。岩瀬さん、藤生さんは、この研修会で6回参加をクリア。お免状が授与され、ついにワシントンに二人の指導者が誕生した。その後、津田貴子さんらも続き、現在、指導員資格の取得者は7人となる。ワシントンパワーは素晴らしい!

ワシントン在住の方からも指導員が誕生 (2015年10月)

ワシントン在住の方からも指導員が誕生 (2015年10月)

コロナ禍での挑戦

2019年夏から、夫の転勤で、福井県に住んでいる。東京での6つのクラスは、すべて三人の助手に任せているが、本部関連の仕事もあり、月に1-2度は福井と東京を往復。そんなペースにも慣れてきた2020年初頭、日本でも新型コロナウイルス(COVID-19)感染が広がり始めた。

米国ではコロナ禍の拡大は恐ろしい速さと規模で広がり、春以降は、ワシントン教室のすべてが一時休講に。だが、指導員始め、会員の皆さんはすぐにオンライン体操に取り組み始め、現在もZOOMでのクラスが継続されている。私もこれを機に、指導員始め、指導員を目指して頑張っているメンバーと、月に一度のオンライン勉強会を行っている。ワシントンの仲間同士が顔を合わせ、それぞれの情報共有、話し合える場であり、楽しく充実した時間となっている。私自身も多くを学び、福井からもこのような機会を持てることに感謝している。

自彊術を通しての繋がりが、コロナ禍で孤立しがちな私たちにも、大きな励みや癒しとなった。これからも、ワシントンと日本を繋ぐ自彊術の輪が広がっていくことを心から願っている。

コロナ禍のオンライン勉強会の様子 指導員の方たちと

コロナ禍のオンライン勉強会の様子 指導員の方たちと


自彊術普及会のホームページ:
• 米国での問い合わせ先:ケアファンド事務局
TEL: 703-256-5223
Email: carefund@jacarefund.org
• 著者連絡先:feliz513@gmail.com

    二都結ぶ健康体操「自彊術」” に対して1件のコメントがあります。

    1. 大野里花 より:

       はじめまして。大野里花と申します。自彊の友などででもお話伺い深く感銘受けておりました。思わずこちらの記事に出会いコメントさせて頂きます。外資系金融機関に勤め海外勤務経験もあるのでこの日本古来の体操にとても興味持ち本当に出会えた事感謝しています。自彊術初めて5年目。地方におりますのでなかなか支部会制度に慣れず四苦八苦。コロナ禍で皆様想いがそれぞれありお勉強諦めもいたしましたが『自彊』だからと自身で続け支部の方にもようやくご理解いただきご指導いただけるようになりました。先生におかれましても場所が変わっての普及、勝手が違うこともお有りかと存じますが信じて頑張ってください。

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